ビーチコーミング(Beach Combing)とは、海浜に打ち上げられた漂着物を採取する行為のことで、海浜(Beach)をなでる様に漂着物を採取する様子が、櫛で髪をとく(Combing)様に見えることが名前の所以となっています。
ひとえに漂着物といってもその種類は、ビーチグラス(ガラスの欠片が、波の力などによって角が削られ、表面にがすりガラス状になったもの)、流木、貝殻、浮き、海棲哺乳類の死骸など多岐に渡っています。しかしながら多くの方は、“海開き前に海浜の漂着物を清掃した”とニュースなどで耳にするため、これらの漂着物=ゴミという認識を持っているかもしれません。ここであえて言わして頂くとすれば、「漂着物=ゴミでは無い!ことも…」という事です。例えば、ビーチグラスは地域通貨として、流木はアクアリウムのレイアウトとして、貝殻や浮きはインテリアや装飾品として、そして海棲哺乳類の死骸は種類によっては学術研究・調査のために必要なデータであり、それぞれに利用価値があります。また、一見石にしか見えない、竜涎香(マッコウクジラ等から極稀に排泄される胆石の様な物)は、高級な香料として金と同等の価格で取引されており、海浜で発見できる高価な物の1つとして知られています。
なにを隠そう、筆者もビーチコーマーの端くれであり、釣りや調査にかこつけてビーチコーミングを行っています。そんな筆者が今まで採集した漂着物の中で、印象に残っているものをいくつか紹介したいと思います。
・ガラス玉
とある海浜での調査の休憩時間中に、筆者はいつものようにビーチコーミングをしていました。その際、波間に漂い、太陽光を受けて一際輝きを放つガラス玉を発見しました。さながらその容姿は、7つ揃えると竜が出現し、願いを叶えてくれる架空のあの玉のようでした。このガラス玉は、かつては漁業用の浮きとして欠かせない道具でしたが、現在ではその需要はわずかになっているようです。しかしながら、小樽のガラス職人が生み出しているこのガラス玉は、もっぱら漁業用の道具というより、工芸品としての趣をかもし出しています。このことから、ガラス玉はルームライトや花瓶などに加工される事でインテリアとしての価値が見出されています。
・陶器の欠片
北海道のとある海浜で釣りをしていた際に、ふと足下に目を向けると陶器の欠片が散在している事に気付きました。興味をそそられた筆者は、その欠片をいくつか採取しました。するとその欠片の1つに「有」の刻印がありました。調べるとどうやら有田焼の陶器という事が判明しましたが、「何故ここに?」という疑問が残りました。さらに調べると有田焼はかつて北前船によって日本各地に運ばれており、中には運搬途中で海難に遭遇し、沈没した船もあるようです。その沈船から有田焼が流出し、日本各地の海浜に漂着しているとの事でした。つまりこの陶器の欠片は、かつて富を手に入れようと志した海の男達のロマンの欠片でもあった訳です。このロマンの欠片ですが、筆者の家庭では箸置きとして第二の人生を歩んでいます。
以上の様に、歴史的な背景のある漂着物に出会えるのも、ビーチコーミングの魅力の1つだと言えるでしょう。ただし漂着物の中には、鋭利な物、有毒な魚貝類、漁業権が設定されている水産物等もあります。また、ビーチコーミング中に天候や海況が悪化する事も十分に考えられます。上述の様な危険事項への対策をしっかりと行うことで安全を確保し、かつ法を犯さないようにする事がビーチコーミングを行う際の大前提となっています。
皆様も漂着物が流れ着きやすい時化後の海浜でビーチコーマーとしてデビューし、採取した漂流物の背景に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?と、ビーチコーミングのすすめをし、筆を置かせていただきます。
<参考HP>
“ビーチコーミングとは”.漂着物学会.
<http://drift-japan.net/>
“ビーチマネーについて”.海をきれいにするビーチグラスの地域通過.
<http://beachmoney.jp/>
“竜涎香”浮かぶ金塊“を探そう”.海人のビューボート.
<http://chikyu-to-umi.com/kaito/index.htm>
“「海に残された有田焼」”.有田旅行記.
<http://4travel.jp/travelogue/10525528>
“歴史がつまったガラスの浮き玉を港町小樽から”.HOKKAIDO LIKERS.
<http://www.hokkaidolikers.com/articles/81>