樹木と鳥類の共生関係
自然環境部 陸域担当チーム
米田 豊
本格的な冬を迎えた2月、弊社が本社をかまえる札幌では積雪深が増え、最低気温がー10℃を下回る日があります。周辺の森林では、広葉樹が葉を落とし、地面は雪に覆われ、目につく色彩と言えば、雪の白の他には、木々の樹皮の茶色や針葉樹の葉の緑ぐらいになりました。このようなモノトーンに近い景色の中で、目を惹かれるのがナナカマドなどの樹木に実る真っ赤に色づいた果実です。
今回のエコ森林通信は、このような果実をつける樹木と鳥類の共生関係について紹介します。
植物と動物との関係は、主に食べる(動物)-食べられる(植物)の構図にあり、この他には動物による棲み処や隠れ場所などの生息空間としての植物の利用があげられます。このように見ると、動物が植物を利用しているだけのように思われがちですが、動物の中でも特に鳥類は植物を食べて一方的に利用しているのではなく、種子の散布によって植物の繁栄に貢献し、「持ちつ持たれつ」の関係にあるものが多いことが知られています。
ナナカマドの果実をついばむ「ツグミ」
(札幌テクノパークで筆者撮影)
植物は動物と違い、自由に動くことができません。このため、せっかく作った種子が親の近くに落ちると、密度に比例して捕食や病気のリスクが高まる、親の直下の地面では芽吹いても親の陰で日光を獲得できない、兄弟どうしの競争が起きる、遺伝子の交流機会が減少するなどの不利益があります。このため、植物が子孫を増やし、分布を広げるためには、種子を遠くに運ぶことが必要になります。
そこで植物は、風や水(海流)、動物などの働きを利用して、種子を親から離れた場所へ、広い範囲に到達(散布)させるような仕組みを進化させてきたとされています1)。
動物による種子散布は大きく三つに分けられ、①皆さんも経験があると思いますが、種子の鉤や棘、粘液によって動物にくっついて運ばれる「付着型散布」、②ドングリやクルミなどのように動物によって地中に埋められた種子が食べ残されて発芽する「食べ残し型散布(貯食型散布)」、③種子の周りの柔らかい果肉を動物が食べ、種子が吐き出されたり糞とともに排泄される「周食型散布(被食型散布)」があります。この中で、多くの種子をより遠くへ運び、種子の分散に貢献するのが鳥類による周食型散布だと考えられます。
鳥類は飛翔能力があるため行動範囲が広く、種子を遠くまで運ぶことができます。都市環境での研究では、鳥類による種子散布は少なくとも300m程度の距離で行われた結果が得られています2)。また、哺乳類には歯があり、噛む力が強いために果実を食べた際に内部の種子を破壊してしまうことがあります。一方で鳥類には歯がなく、果実を食べる場合には、みずみずしい果肉の部分を食用とし、内部の種子は口から吐き出したり糞とともに排泄したりします。こうして排泄された種子は、自然落下のものに比べて発芽率が高い例が多くみられます。これは、鳥類の消化管を通過することにより余計な皮が除かれ、種皮が適度に柔らかくなるためであると考えられています3)。
植物も鳥類に食べられるのをただ待っている訳ではありません。昆虫類が減り鳥類の餌が不足する冬季まで果実を落とさずに残すことにより、鳥類に餌として選択されやすくしています。また、果実の色は赤、オレンジ、黒紫など鳥類にとって目立つものが多く、これは鳥類を引き付ける効果があるようです2)。さらに、確実に種子が運搬されるように、鳥類が丸飲みする程度の大きさの果実が多いようです。
公園の木々や街路樹などに果実を見つけたら、少しの間、立ち止まって観察してみてください。やがて、鳥類が現れ、ついばみ始めるかもしれません。そして、「鳥類に栄養を与える植物」と「植物の種子を散布する鳥類」との持ちつ持たれつの共生関係が垣間見えると思います。
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