藻場の栄養源
自然環境部 海域担当チーム
工藤 俊樹
4月に入り、例年よりも気温の高い日々が続いておりますが、水中ライブカメラ前の施設は例年通りの賑わいを見せています。これから初夏にかけては更に生長する姿を見せてくれるでしょう。
図1 水中ライブカメラ映像(2023/04/11)
コンブ類が生長する上で重要となるのが栄養塩であり(Vol.17)、一般的に亜寒帯沿岸域の栄養塩濃度は夏季に減少することが知られています。コンブ類については、夏季の生長率低下と栄養塩濃度、特に溶存態無機態窒素(DIN)との関係が注目されています。また、一般的にDIN濃度では、硝酸態窒素(NO3-N)が重要とされており、NO3-Nが枯渇する期間が極めて短いか3~4µM以下に下がらない海域では、夏季でもコンブ類が良好な生長を示すことが知られています。
襟裳岬岩礁帯では、周辺海域と比べて夏季でもDIN濃度が高濃度で維持されており、窒素安定同位体比(15N/14N)の結果からアザラシの死骸や排泄物に由来すると考えられています。襟裳岬岩礁帯のアザラシ由来の栄養塩により、夏季でもミツイシコンブの葉体サイズは大型化する傾向を示すことが明らかにされています。
図2 アザラシによる栄養塩輸送
Vol.15で紹介しましたニシンや、今回のアザラシのように、多様な生物が藻場の栄養源として機能しており、これらを含む生態系の保全が重要となってくると考えられます。
参考文献
吉田吾郎・新村陽子・樽谷賢治・浜口晶巳(2011)海藻類の一次生産と栄養塩の関係に関する研究レビュー -および瀬戸内海藻場の栄養塩環境の相対評価-,水研センター研報,34,1-31.
栗林貴範(2021)コンブを育てるアザラシ- 栄養源としての隠れた役割- ,北水試だより, 103 ,9-12.