ある日、会社で帰り支度をしていると・・・ある人から「これ何やろ?」と写真を見せてもらいました。
「なんじゃ、こりゃ!」と言ったかどうかは覚えていませんが、写真を見てびっくりしました。少なくとも私は今まで見たこともない光景の写真です。
“いきもの”であることはすぐに推察し、その形態から軟体動物のツノガイ類かな?環形動物のウミイサゴムシかな?(マニアックな話ですが・・・)などを思い浮かべましたが、殻の質感や色、大きさ、また、岩場に打ち上げられたその状況からすると、明らかにそれらとは異なると考えました。
話をよく聞くと・・・9月に入ったある晴れた日、北海道南西部の日本海に面した海岸の岩場において、磯遊びのイベントをしていたら、この状況に出会ったとのことです。
さらに詳細な状況を聞き取ると、
①平磯の岩場に大量に打ち上がっていた
②半透明な脆い殻が手に刺さった
③潮だまりに入れてみると、2枚の羽根みたいなもので泳いだ
とのこと。ここで③の状況を聞き「2枚の羽根」で思い出したのが、「クリオネの近い仲間でこんな形のものを図鑑で見たことあるかもしれない」でした。早速、貝類が載っている図鑑を手に調べてみて・・・判明しました。
その名前(種名)はウキヅノガイ(学名:Creseis clava)と言い、軟体動物でクリオネなどの仲間(巻貝の仲間)でした。円筒状の非常に細長い殻をもっており、殻の長さは最大で3cm程度になり、殻口から出た左右の翼足で遊泳します。我が国の暖流水域では普通に見られる種類だそうです。大量に発生した記録も本州では残っているようです。この周辺でこれほどの量が打ち上げられているのは、大変珍しいことで、おそらくは西風が強く、偶然にも岩場に打ち上げられたため、人目についたのではないかと考えます。
ちなみに本種は、チリモン(チリメンジャコに混ざっている小さな海の生き物の干物であり、チリメンモンスターの略)の1つとしてチリモン図鑑にも紹介されています。アップにして観察してみると、“いきもの”が作ったものとは思えないほど、無機質なガラス細工のようで、とてもきれいです。
でも、手に刺さると痛そうです。くれぐれも安易に触ってケガしないようにしましょう!
※日本でウキヅノガイと呼ばれているものはCreseis aciculaと同定されていましたが、C. aciculaは Kubilius et al. (2014) によりC. clavaのジュニアシノニムとされました。
<引用文献>
MORIOKA, YASUHIRO(1980)Dense population of a pteropod, Creseis acicula, in the neritic waters of the middle Japan Sea. Bull. Jap. Sea. Reg. Fish. Res. Lab., 31, 169-171
“チリメンモンスターWEBインタラクティブ図鑑.”ネイチャーおおさか.
< http:// www.chirimon.jp/ >
“Creseis clava”.日本海洋データセンター.
< http://www.godac.jamstec.go.jp/bismal/j/JODC_J-DOSS/view/9047932 >