北海道のイトウシリーズ Part1
北海道立水産孵化場
養殖技術部 寺西 哲夫
イトウは、昔は全道各地の緩やかな流れを持つ比較的大きな川にごく平凡に見られる魚だったようです。また、アイヌの人々には春の貴重な食料源になっていました。
このポピュラーな魚が何故、「幻の魚」などと呼ばれるようになったのでしょうか。
イトウに興味のある方は皆さんご存じと思いますが、「イトウの生活環境が悪くなったから」が正解のようです。どのように悪くなったのでしょうか。
サケ科魚類のイトウは産卵の時、産卵した卵を埋める適当な場所が必要なのです。イトウは一般に川の中流や下流、時には海にいますが、産卵する時には川の上流に移動します。産卵は水深の比較的浅いところで、川底の砂利を掘りおこし適当な深さの穴(産卵床)にします。この産卵床に受精した卵が入り、上から砂利で覆って終了です。ですから、産卵に適した場所が上流に無い場合や川に築かれた障害物により上流へ行けない場合にイトウは産卵ができなくなるのです。また、受精した卵が発生を続けて稚魚になるには水温約10℃でほぼ35日もかかりますから、卵にはきれいな水と充分な酸素が供給されなければいけません。
この様に、ワイルドなイメージをもたれるイトウですが、その産卵や卵の発生にはとてもデリケートな環境が必要なため、様々な環境の悪化がイトウに影響を与えた結果、「幻の魚」ブランドのイトウになったことは疑いがないようです。
孵化後1年目の朱鞠内湖産イトウ(筆者撮影)