<陸の生き物シリーズ Part11>
株式会社エコニクス
環境事業部 陸域環境チーム 嶋崎 太郎
4月から5月にかけて、札幌近郊の森では黄色のフクジュソウ、青色のエゾエンゴサク、ピンク色のカタクリ、紫色のエンレイソウなど、色鮮やかな花々が林床を彩り、我々の眼を楽しませてくれました。
これらの植物は、早春の雪解け直後に一斉に花を咲かせ、木々の葉が茂り林床が暗くなるまでの間に栄養を蓄え結実します。そして夏には地上部が枯れてしまい、来年の春まで休眠に入ります。このような生活史から、これらの植物は「春植物」、または「スプリング・エフェメラル(春の儚い命)」などと呼ばれています。
さて、この春植物ですが、その生活史は昆虫と非常に深い結びつきがあります。
春植物は、そのほとんどが虫によって花粉を運んでもらう虫媒花です。しかし、早春に花を咲かせるため、花粉を運んでくれる昆虫が限られている状況です。そのため、春植物の花には昆虫を引き寄せる工夫が成されています。例えば、カタクリの花はチョウやハチが好む赤色光や青色光を反射することで、これらの昆虫を誘引していると考えられています。その他の春植物も、鮮やかな色をしているものが多いことから、同様に昆虫を誘引する仕組みになっているのかもしれません。また、花に多量の蜜を持っていることや、花の構造が昆虫の止まりやすいようにできていることも、昆虫を誘引する工夫の一つだと言われています。
一方、種子散布も昆虫、特にアリを利用して行われます。多くの春植物の種子には、先端に白い団子状のものが付いています。この団子状のものはエライオソーム(種沈)と呼ばれており、その中にはアリの餌となる物質(オレイン酸などの脂肪酸、グルタミン酸などのアミノ酸、ショ糖などの糖)が含まれています。そのため、種子が熟すとすぐにアリが集まってきて、その種子を巣の中に運び込みます。運ばれた種子は巣の中でエライオソームの部分だけ食べられ、残った種子そのものは食べカスとして巣の中のゴミ捨て場に捨てられたり、巣の外に土と一緒に捨てられたりします。いずれにしても、種子は発芽能力を失うことなく、運ばれたことになります。アリにとっても、餌となるエライオソームを獲得できるので、両方が利益を得ることになり、アリと植物は双利共生の関係にあるといえます。
このように、春植物は昆虫と上手く協力して子孫を残し、生育範囲を広げてきました。しかし、残念なことにこれらの春植物は近年急速に数を減らしているのです。その最も大きな原因は、開発による生育地の消滅や、盗掘行為などの人間による影響です。現在、多くの種の春植物が環境省や都道府県のレッドデータリストに名を連ねています。
これからは、人間も春植物と昆虫の関係を見習って、春植物を始めとする動植物ともっと上手く付き合っていく必要があるのではないでしょうか。いつまでも早春の花々の饗宴が見られるように。