<東北シリーズ Part2>
株式会社エコニクス
環境事業部 復興推進チーム 峰 寛明
1はじめに
東日本大震災から2年半になろうとしています。陸上部の復興は進んでいますが、海中の復興はまだまだのようです。今回はリアス海岸における養殖業で重要な貝毒、砂泥底に特徴的なアマモの状況についてお伝えいたします。
2.砂泥底の海洋環境
(1)貝毒について
松島湾から宮古までのリアス海岸の湾では近年貝毒によるホタテ、カキなどの出荷規制が問題となっています。貝毒は特定の有毒プランクトンの増殖と貝類がそれらを餌にすることでの毒化によるもので、貝類には害はないが、食した人に麻痺や下痢などの症状を引き起こします。大船渡湾など岩手県ではおもに麻痺性貝毒が、松島湾から気仙沼までは下痢性貝毒が主体です。大船渡湾西部における麻痺性貝毒は平成25年2月に規制値を超え、平成25年7月時点でも養殖ホタテの自主規制が続いています。
貝毒被害の問題点は赤潮のようなへい死といった直接被害ではなく出荷停止による間接的な被害であることです。つまり流通段階における市場動向により被害の額が大きく変動することで、地域、時期に左右されます。銀鮭のように、流通が途絶えている間に輸入ものが台頭してしまう恐れもあります。
代表的な麻痺性貝毒プランクトンであるAlexandrium属は増殖を終えると休眠接合子(シスト)として海底に堆積し、次の年の増殖に備えます。つまり、増殖期の環境条件が整えば高い確率で増殖するため慢性的な貝毒発生の原因となります。Alexandrium属シストは耐久力が強く、長いものでは100年前のシストが発芽できた事例もあり海底土中で深く潜伏していましたが、先の津波でこれらが一度海中に巻き上げられたのち海底の表層に集積し発芽しやすくなった可能性も示唆されています。一方下痢性貝毒プランクトンであるDinophysis属はシストを形成しないため、湾外からの流入が主な発生源になります。
震災後に復旧した志津川湾の養殖施設(2012年10月25日撮影)記事内容とは無関係です。
(2)アマモについて
環境省や東北区水産研究所(水産総合研究センター)の調査では宮古湾、大槌湾、松島湾などでアマモの大部分が流失しました。宮古湾などではアマモは回復過程にあるようです。宮城県万石浦などのアサリも多くが流失しましたが、新規に加入した稚貝によって資源は回復の兆しがみられます。しかし、いずれも回復には長い年月がかかるようです。
最近の研究では、アマモなどに付着する細菌の一部がAlexandrium属など有害藻類の栄養細胞に対して増殖阻害作用があることがわかりました。このことは、アマモ場が物質循環や生息空間の提供以外に水産業に有効的な役割を示していることを示唆していると言えます。
3.今後の展望
貝毒と震災の関係はまだ現状がよくわかっていないため対策の方向性を定めるのは難しそうです、海流の盛衰と貝毒プランクトンの関係、さらに麻痺性貝毒プランクトンについては津波とシストの関係を明らかにすることが喫緊の課題と言えます。対策段階ではアマモと貝毒の関係に着目すると、アマモ場の早期回復による貝毒プランクトンの抑制が有効であると思われますが、ホタテなどの養殖施設に近いとより効果的であると思います。
環境面以外では生産環境の回復とともに流通市場が維持されていることが必要です。貝毒による出荷規制の影響により需給バランスが崩れると作る人、食べる人共に残念なことになります。日本の魚は多種多様ですが輸入魚に比べ魚種ごとの生産量が安定しないことが不利な点ですが、旬の時期に多く漁獲された魚を食べる日本古来の食文化を守ることが一番重要なのだと思います。
参考文献
今井一郎・福代康夫・広石伸互編(2007):貝毒研究の最先端-現状と展望.水産学シリーズ[153],恒星社厚生閣.
今井一郎(2012):シャットネラ赤潮の生物学. 生物研究社.
野田 勉(2012):震災後のアマモ場とそこに棲む稚魚たち~藻場の回復と今後の資源増殖~ , 東北水産研究レター,No.25.
大西 由花(2011):有毒渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseの増殖阻害細菌の生理生態学的研究.北海道大学水産学部大学院水産科学研究院修士論文.