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エコニュースVol.253

2014年07月01日

<陸の生き物シリーズ Part18>

見えないものを見つけ出す!環境DNA

株式会社エコニクス 環境企画部
事業企画チーム 山本 翔

 

 近年、人間活動は生態系からもたらされる恩恵を受けているという「生態系サービスの享受」の考え方が徐々に浸透し、生物多様性の保全・維持に関する話題が多く取り上げられるようになってきました。私たちが持続可能な社会に生き、健全な生態系と共存していくためには、まず恩恵の源である自然環境の現状把握が必要になってきます。
 池や河川などの環境中には、そこを生活圏とする生物の糞や脱落した体表の一部などがあり、そこにはDNAが含まれています。これらを総称して「環境DNA」と呼びます。近年、生物の生息地域の池や河川の水に含まれる環境DNAを調べることで、魚類や両生類など、比較的大型の生物における存在の有無や量を把握できる技術が発達してきました。最近の研究では、コイを用いた水槽と野外人工池での実験において、それぞれの水に含まれる環境DNAのうち、コイに固有のDNAの特定の一部を増幅・定量化する手法によって、コイの生息量(数や重量)に比例して水中のDNA濃度が高くなることが明らかにされました。さらに自然状態の湖から採取した水について同様の分析を行うことにより、その湖での生息量の推定が可能のようです。また、ある地域のコイの個体群に他地域のコイが混ざってしまう、外来系統群の侵入を迅速に推定する評価手段としても環境DNAは有効だという研究結果が出ています。

図 湖におけるコイの生息量推定(引用元:参考文献1.)


 従来の水域での生物調査手法では、目視の他、タモ網などを用いて採集するため、結果としての生物種や個体数は、採集者の経験などに依存する部分が少なからずありました。環境DNAを利用した生物調査の利点として、このような経験の違いによる影響を抑えるとともに、少量の水(約2リットル)を汲むだけでいいので労力をかけずに迅速に分析が行える点、また生息数が少ない希少種の場合は、調査による生息環境への負荷軽減などがあげられます。しかし、生物から放出されたDNAの分解速度や分散過程の評価など検討項目が多く、従来の調査手法との比較検討がまだまだ必要でしょう。
 私の故郷では、初夏の夜になると近所の田んぼや小川にちらちらとヘイケボタルが舞っていましたが、いつの頃からかめっきり見かけなくなりました。しかしいなくなってしまった、と思い込んでいるだけで、もしかしたら案外近くにいるのかもしれません。私たち人間も含め、生物が生きていくには多様性のある生態系が必要です。普段は気づかないけれど、近くの小川には想像もしていなかった生物がいると思えば、見方が変わってきませんか?

【参考文献】1. Takahara T, Minamoto T, Yamanaka H, Doi H, Kawabata Z (2012) Estimation of Fish Biomass Using Environmental DNA. PloS ONE 7 ((4)) e35868. doi: 10.1371/journal.pone.0035868.
2. 内井喜美子, 土居秀幸, 源利文, 山中裕樹(2014) 同種内外来種の侵入規模の迅速把握. 日本生態学会第61回全国大会要旨.

 

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