<海環境シリーズ Part16>
株式会社エコニクス 泊事業部
泊担当チーム 篠原 陽
今年度、泊担当チームでは「計量魚群探知機を用いた海藻群落の現存量推定」といった試験調査を実施しています。調査名を見て読者の方々の中には、「計量」と語頭に付いているが普通の魚群探知機とは異なるものなのか?、そもそも魚群探知機なのに海藻類を測定することに使用できるのか?等々の疑問を持たれるかもしれません。本稿では、筆者が現地調査からデータ解析まで携わってきた経験を基に、計量魚群探知機に関する基礎的な内容、ならびに今後の展望をご紹介したいと思います。
先ず魚群探知機についてですが、同機器は主に漁船やプレジャーボートに搭載されています。超音波を船底から水中に向けて発射すると、超音波が魚類やプランクトン等の生物や水底に反射し、その強度と時間から、生物の在・不在、水深、および海底地形等の測定が行えるというものです。なお、これらの測定結果は、船上のモニタ上に、反射強度が深度ごとに色分けされて表示されるので(=エコーグラム)、直感的に水面下の状況を把握することができます(図1参照)。
図は、船底から発射された超音波が生物と水底に反射し、モニタ上にエコーグラムとして表示されるまでを模式的に示したものです。
では計量魚群探知機は上述の魚群探知機と比較し、どのような点で異なるのでしょうか?それは、以下の4点が挙げられます。
1.対象物の反射強度等を定量的に測定可能
2.反射強度等のデータは単位面積・体積あたりの値に換算可能
3.データを記録媒体に連続的に収録可能
4.データを専用ソフトやGIS(地理情報システム)上で利用可能
上記の点から、計量魚群探知機は様々な機関の調査船に搭載され、主に魚類やプランクトンの資源量・分布調査、魚礁の集魚効果の評価などに用いられてきました。
しかしながら、同機器は海藻類にも反応を示し、そしてその高さ等も定量的に検出できるため、近年は藻場調査においても活用されるようになり始めました。これにより、ダイバーによる藻場の目視調査よりも広範囲を迅速に可視化することが可能となり、かつ衛生画像やドローンによる空撮データを用いた解析よりも高精度に藻場の分布範囲、繁茂面積、高さ等を推定する事が可能になりました。
この手法を活用して知床半島沿岸におけるコンブ場やアマモ場、下関沿岸におけるガラモ場をはじめとする多くの研究事例が発表されており、弊社でもコンブ場やアマモ場の分布調査を実施してきました。
今年度の当社の試験調査においては、ホソメコンブ、ワカメ、ケウルシグサ等の海藻類の反応を検出することができ(図2参照)、取得したデータから、海藻類の分布状況と高さを示したマップを作成し、繁茂面積の算出等を試みています。
横軸が時刻、縦軸が水深、左方のカラーバーは反射強度の度合いを示しています。赤い破線内の反応は、目視によりホソメコンブと判定されたものです。
一方で同調査から、計量魚群探知機の反応のみでは、海藻類の種判別や小型の海藻類の反応を検出することは困難であること、また海藻類の現存量を定量的に推定するためには、多点における海藻類の調査が必要であるなど、技術的な課題や解析に要する労力の大きさなどがわかりました。しかしながら、これらの課題は、機器の性能やデータの解析精度を向上させること、さらには多様な海藻類の反応データを蓄積することで解決できると考えています。
これらを解決することにより、広範囲に渡る藻場の種組成や種ごとの現存量も迅速に推定可能になります。このように藻場調査において計量魚群探知機を活用することは、藻場の造成や磯焼け対策を目的としたモニタリング、コンブ漁やウニ漁の操業効率化等々、多様な分野へ新たな一石を投じることができる手法になると考えられます。また、このような水産資源に関する調査・研究の充実が、我が国における水産業の発展に繋がることを切に願います。
<参考文献>
南憲吏ら(2015)音響反射強度測定による来留見ノ瀬のホンダワラ科藻場の現存量推定と季節変化. J.Marine Acoust.Soc.Jpn., Vol.1, No.1.
Kenji Minami et al.(2014)Quantitive mapping of kelp forest (Laminaria spp.) before and after harvest in coastal waters of the Shiretoko Peninsula, Hokkaido, Japan. Fish Sci, 80, pp.405-413.
藤野忠敬、川端淳、木所英昭(2010)エコーグラム図鑑-日本周辺で計量魚群探知機により観察される生物種別エコーグラム-. 独立行政法人 水産総合研究センター 日本海区水産研究所 資源評価研究室.