<海の生物シリーズ Part33>
株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当 武田 康孝
今回、話題にします「カシパン」とは甘いお菓子のようなパンのことではなく、海の底にいる動物のお話です。
子供のころ近くの砂浜に行くと、白くて丸い、そしてひらべったい骨のようなものがよく打ち上げられていました。骨のようなものといっても、子供の力でも簡単に壊れるほど脆く、これは「生きもの」なのか、はたまた何なのかと子供ながら疑問に思ったものでした。また、それらを後生大事に家に持ち帰り、夜な夜な眺めたものです。今になってみると、それらはカシパン類の外骨格だったということがわかりました。
カシパン類とは、棘皮動物門ウニ綱タコノマクラ目に属する生きものの総称です。棘皮動物といえば、いわゆるウニ類やナマコ類、ヒトデ類なども属しており、大きく括るとこれらと同じ動物の仲間になります。
カシパンの名前の由来は、その形が菓子のカシパンに似ていることからその名が付けられ(諸説あります)、外国では1ドル硬貨に例えて「サンド・ダラー(Sand dollar)」などと呼ばれています。
形状はボールを上下で押し潰したように扁平です。殻表には短いとげが密生しており、ひいき目に見ると何となくですが、ウニに近縁であることが窺われます(そんな風に見えませんか?)。
密生する短いとげを取り除くと、背面に5つのお洒落な花びら模様(花紋)が見えます。この花紋は単なる殻の模様ではなく、呼吸を助けるための装置になります。カシパン類は浅海の砂泥中に生息しています。海底(砂泥中)では背面を上にして生息しているため、背面で効率よく新鮮な海水を利用しようとしているわけです。カシパン類の口(囲口部)は腹面側の中央にあり、有機物細片を食物としています。
ハイイロハスノハカシパン(ホルマリン固定、左:背面、右:腹面)
ハイイロハスノハカシパンの花紋(花びら模様)
※画像処理(色彩強調)済み
北海道でよく見られるカシパン類として、「ハスノハカシパン」「ハイイロハスノハカシパン」の2種がいます。以前、幅が広く縁が著しい波形を呈するものを「ナミベリハスノハカシパン」と別種扱いしていましたが、近年は、ナミベリハスノハカシパンはハスノハカシパンのシノニム(異名:ある同一の生物に名付けられた複数の学名のことを意味します)とされています。
このハスノハカシパン、ハイイロハスノハカシパンは、形が特に扁平で薄く、丸みを帯びた五角形をしています。腹面は中心の口(囲口部)から5本の溝(食溝、もしくは歩帯溝)が放射し、その先が二叉に枝分かれしています。これがハスの葉脈を思わせていることも本種の名前「ハスノハ」の由来となっています(諸説あります)。
カシパン類(ハスノハカシパン)の形態模式図
(「試験研究は今 第47号」などをもとに作成)
ハイイロハスノハカシパンの外骨格(左:背面、右:腹面)
※画像処理(色彩強調)済み
生時の体色はハスノハカシパンが濃紫色であるのに対し、ハイイロハスノハカシパンは灰(濃褐)色です。そのため、北海道では、ハスノハカシパンは「ムラサキダラ」、ハイイロハスノハカシパンは「ハイダラ」などと呼ばれています。
これらの種はウバガイ(ホッキガイ)やバカガイと餌を競合する生物としても知られ、時にはウバガイ(ホッキガイ)漁場一面に、カシパンが敷き詰めたような状態になることがあります。
このカシパン類ですが、その生活史についてはまだまだ不明な点が多い生きものの1つです。どうして、このような形なのでしょうか?不思議ですね…。できれば、カシパンに聞いてみたいところです。
最初にお話ししましたように、カシパン類は外骨格が残ることが多いようです。その外骨格はアクセサリーに利用され、ペンダントやキーホルダーなどが販売されています。先ほど説明した花紋が綺麗なので、誰かのプレゼントとしていかがでしょうか?
<参考文献>
マリンネット北海道(1990)試験研究は今 第47号.「ホッキ、バカガイ漁場のカシパンの生態と貝類に与える影響について」.
< https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/o7u1kr0000002ds4.html >
小松美英子・柴田大輔・若林香織・木暮陽一・加野泰男・高橋延昭(2007)利尻島沿岸の棘皮動物.利尻研究(26),p1-14.
本川達雄 編著(2009)ウニ学.東海大学出版会.