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エコニュースVol.306

2018年12月01日

海にいるクワガタ…のお話

株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当 武田 康孝

 

 今回、話題として取り上げるクワガタとは、昆虫のクワガタムシのことではありません。昆虫類と同じ節足動物ではありますが、どちらかというとダンゴムシ類や今や大人気のグソクムシ類に近いウミクワガタ類のお話です。

 私が学生の頃、せっせと卒業研究に勤しんでいたとき、1匹(個体)のベントス(ECONEWS191号)に出会いました。自分なりに色々と調べてはみたのですが、なんの生物なのか名前すらわかりませんでした。その時、一人の先輩が「それってグナチアの幼生ではないかな」と教えてくれました。当然、私は「グナチア?」となり、その後色々と調べていくうちに、海にいる“クワガタ”のことを知りました。

 ウミクワガタ類は、分類学的には節足動物門軟甲綱等脚目のウミクワガタ科(Gnathiidae)に属する海産甲殻類の総称のことです。ベントス研究者の間ではグナチアのほうが良く使われます。
 このウミクワガタ類の雄成体はクワガタムシのように大顎(いわゆる頭部の「はさみ」)が発達し、いかにもクワガタムシのように見えます。これに対して、雌成体では雄のような大顎はなく、胸部が卵を抱える育房となっているため、大きく膨らんでいます。ちなみに、雄が持つこのクワガタムシのような大顎の用途はまだはっきりと分かっていません。

 



ウミクワガタ類(ソメワケウミクワガタ)成体(♂個体)

 

 一方、ウミクワガタ類の幼生は、プラニザ(Praniza)幼生やズフェア(Zuphea)幼生と呼ばれており、成体とは似ても似つかぬ体型(形態)をしています。一見しただけでは、とても同じ生き物の親子とは思えません。

 


ウミクワガタ類のズフェア幼生

 

 このウミクワガタ類は、とても興味深い生態を持っています。

 まず1つ目は、幼生は魚類の体液を吸って寄生生活をすることです。幼生が寄生する魚種は小型魚類から大型魚類まで多岐に亘り、魚類への寄生と海底での生活を何度も繰り返すことが知られています。ズフェア幼生が寄生をして寄主から体液を吸って成長し、プラニザ幼生となります。プラニザ幼生として海底上で齢を重ねてまたズフェア幼生となります。これを何度か繰り返してやがて成体となります(下図参照)。

 


ウミクワガタ類の生活史(模式図)
※“太田悠造 profile”を参考に作成

 

 そして2つ目は、成体は海底で何も食べずに繁殖のみをおこないます。つまり、幼生期に蓄えた栄養だけで生きていくこととなります。雌は胸部全体に卵を抱きますが、卵が孵化して幼生が育房から出ていくと、やがて死んでしまいます。一方、雄は雌を外敵等から守るため、その多くは雌成体の近くに見られます。
 ウミクワガタ類の成体は海底で隠れながら、ひっそりとその一生を終えることとなります。寿命は種によって異なり、およそ2か月から数年とされています。また、雌より雄の方が長生きするという報告もあるようです。

 最近、マニアックなダイバーの間では、ウミクワガタ類が人気となっていますが、写真では大きく見えても、大きさはそのほとんどが1cm以下のサイズのため、かなり小さな生き物です。これらを海の中で見つけるとなると至難の業です。一苦労することは必至であり、それこそ偶然の出会いが必要なのかもしれません。

 思い起こせば、私が学生の時に出会ったウミクワガタ類の幼生は、どうもプラニザ幼生だったようです。写真を撮影しておくべきだったと今となって反省している今日この頃です。

 

 

※成体の写真についてはsasakic氏のご厚意により使用に際する承諾をいただきました。
 この場を借りて厚く御礼を申し上げます。

 

 

<参考文献>
太田悠造(2017)海のクワガタ採集記-昆虫少年が海へ-.裳華房,東京.
“生物コレクション ~その他甲殻類  CRUSTACEA”.近海モノコレクション (Sasakic's Web Site).
<http://namako-sasakic.sakura.ne.jp/~namako/animals/ARTHROPODA/CRUSTACEA.html>
“太田悠造 profile”.自己紹介 -Curriculum Vitae-, 研究概要と研究対象.
<https://sites.google.com/site/haimushigurashi/home/yan-jiu-dui-xiangno-shengki-wu>

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