エコニュース

  • エコニュース
  • 藻場通信
  • エコ森林通信
  • 洋上風力通信

エコニュースVol.342

2021年12月01日

北海道太平洋で発生した赤潮について

株式会社エコニクス 自然環境部
海域担当チーム 峰 寛明

1.はじめに

 2021年の10月に根室~十勝にかけての北海道太平洋海域で大規模な赤潮被害が発生し、サケ、ウニなど現在まで約80億円の被害を受けました(北海道発表、令和3年11月12日時点)。原因はまだ明らかになりませんが、本件の特徴と赤潮対策の難しさを生態学の視点からみてみたいと思います。

2.原因プランクトンについて

 今回の赤潮の原因となったプランクトンは地方独立行政法人北海道立総合研究機構の分析結果によると、発見された赤潮プランクトンはカレニア属(Karenia)ですが、今回優占した種類は西日本で今まで原因となっていたカレニア ミキモトイ(Karenia mikimotoi 以下ミキモトイ)ではなく、カレニア セリフォルミス(Karenia selliformis  以下セリフォルミス)のようです。出現量はミキモトイはセリフォルミスの50分の1程度であり、セリフォルミスの影響が大きいようにみえますが、セリフォルミスが原因種とは断定されていません。出現量の推移をみると、最大密度を観測した十勝地域では10/25~31の間で最大10,560細胞/mlでした。11/8~14の間では5,260細胞/mlと半分ではあるもののプランクトンのスケールからみると減っているとは言えません。

 長崎県では、伊万里湾で発生するミキモトイに対して注意を要する基準値を100細胞/ml、警戒を要する基準値を500細胞/mlとしています。基準値は種類によっても異なる他、海域によっても異なる基準値を設定していることが多いようです。今回出現したセリフォルミスについては国内での発生事例がないため基準値の設定はありませんが、ミキモトイの基準をそのまま適用すると依然として注意を要する密度が続いていることになり、現在もプランクトンをはじめとするモニタリングが続いています。

 赤潮プランクトンのモニタリングでは種の同定は主に顕微鏡で行われますが、セリフォルミスは発見事例が少ないため形態的特徴が見分けづらく(図1)、ミキモトイとの判別は困難を伴います。

 

  
カレニア ミキモトイ   カレニア セリフォルミス

図1 カレニア属2種の顕微鏡写真

 出典 カレニア ミキモトイ: 今井一郎他(2016):有害有毒プランクトンの科学, 恒星社厚生閣.
   カレニア セリフォルミス: Haywood et.al(2004):Comparative Morphology And Molecular Phylogenetic Analysis Of Three New Species Of The Genus Karenia (Dinophyceae) From New Zealand, J.Phycol. 40,  pp.165-179.

 

3.赤潮の発生要因と対策について

 赤潮の発生ではプランクトンの成長速度が重要です。

 カレニア属に限らず赤潮プランクトンの分裂速度は1日1回程度で珪藻の4分の1程度です。通常は圧倒的な増殖速度を持つ珪藻の陰に隠れて赤潮プランクトンが優占することはありませんが、時折水塊構造などの変化で珪藻の増殖が抑制され、いつのまにか赤潮プランクトンと優劣が入れ替わることがあります。いわば「だるまさがんがころんだ」のような状態です。

 カレニア属のような赤潮プランクトンは有効な防止対策が現在ありませんので、被害を最小限に食い止めるためにはこのような珪藻と優劣が入れ替わる赤潮プランクトンの密度について海域、種類ごとに基準値を定め、監視と予察を続けることが重要です。赤潮被害の発生が多い西日本の養殖地域では、監視と予察により栄養塩供給過多とならないよう養殖の餌を減らしたり、斃死する前に早期出荷するなどの緩和策が用いられます。

 しかし、今回赤潮が発生した北海道太平洋海域は開放的であるため、赤潮の観察・予察は西日本とは海洋環境が異なることを踏まえておく必要があります。また北海道で被害が大きかったウニ、サケは養殖魚とは異なり海中では管理下にありませんので、予察後の対応も餌止め、早期出荷以外の独自のものが必要になると思われます。

 

引用文献

Haywood A.J, Steidinger K.A, Truby E.W, Bergquist P.R, Bergquist P.L, Adamson  J, MacKenzie L(2004):Comparative Morphology And Molecular Phylogenetic Analysis Of Three New Species Of The Genus Karenia (Dinophyceae) From New Zealand, J.Phycol. 40,  pp.165-179.
今井一郎他(2016):有害有毒プランクトンの科学, 恒星社厚生閣.
今井一郎(2012):シャットネラ赤潮の生物学, 生物研究社.
伊万里湾赤潮対策検討会議(2018):伊万里湾赤潮対策ガイドライン.
中央水産試験場 海洋環境グループ(2021):道東太平洋赤潮プランクトン情報(臨時), URL: http://www.hro.or.jp/list/fisheries/research/central/section/kankyou/att/NF_doto_redtide_20211018_new.pdf

もどる