株式会社エコニクス 自然環境部
陸域担当チーム 渡邉 香織
1年ほど前の2021年3月2日に、「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。これにより、何が変わったのでしょうか。
改正の全体像としては、以下の3つがあげられます。
① パリ協定・2050年カーボンニュートラル宣言等を踏まえた基本理念の新設
② 地域の脱炭素化に貢献する事業を促進するための計画・認定制度の創設
③ 脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進等
それぞれについて、内容を見ていきます。
①基本理念の新設
前回の法改正(2016年5月公布)の後、パリ協定の締結、IPCC1.5度特別報告書の公表、そして2050年カーボンニュートラル宣言等、地球温暖化対策を取り巻く状況が大きく変化しています。またSDGsも踏まえ、環境・経済・社会の統合的な向上が地球温暖化対策を推進する上でも重要となっています。
こうした観点を法として位置づけることで、国が2050年までの脱炭素社会の実現を牽引することを明確にし、事業者・地方公共団体・国民等のあらゆる主体の取組に予見可能性を与え、その取組とイノベーションを促進します。
②地域の脱炭素化の促進
地方公共団体の実行計画で定める再生可能エネルギー(以下、再エネ)の利用促進等の施策について、その実施目標の設定までは法律上求めていません。また、ゼロカーボンシティを含めた地域の脱炭素化のためには、地域資源である再エネの活用が重要ですが、再エネ事業に対する地域トラブルも見られるなど、地域における合意形成が課題となっています。
これを踏まえ、実行計画制度を拡充し、地域の環境保全や地域の課題解決に貢献する再エネを活用した地域脱炭素化促進事業※を推進する仕組みを創設し、地域の合意形成を円滑化しつつ、地域の脱炭素化を促進します。
※2025年度までに都道府県の実行計画における再エネ目標策定率を、約30%(2019年度)から100%になるよう目指す。
③企業の脱炭素経営の促進
企業の温室効果ガス排出量の算定報告公表制度は、現状、紙媒体中心の報告であり、報告から公表まで約2年※を要しています。また、企業単位の情報は公表されますが、事業所単位の情報は、開示請求の手続をしなければ開示されない仕組みとなっているため、制度における情報活用を促進するための措置が必要となっています。
また、地域地球温暖化防止活動推進センターと地方環境事務所が連携しつつ、地域企業の脱炭素経営の支援を推進していくことも重要です。これを踏まえ、企業の脱炭素化に向けた取組状況の見える化や、地域企業の支援のための措置を講じ、企業の脱炭素経営を促進していきます。
※2022年度の報告分より、排出量の電子報告率を100%、報告から公表までの期間を2年から1年未満に半減することを目指す。
このような世の中の変化の中で、企業には何が求められているのでしょうか。
1990年代以降、地球温暖化をはじめとした環境問題への取組が企業に求められるようになり、「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility / CSR)」という⽤語が⼀般的になりました。そして、企業経営を経済性・社会性・環境性の3つの視点から考えることが企業の持続可能性に必要であるとの認識から、投資の意思決定においてそれらを重視する「ESG(Environment /環境・Social /社会・Governance /ガバナンス)投資」が拡がりつつあります。さらに、「持続可能な開発⽬標(Sustainable Development Goals / SDGs)」の策定、パリ協定の採択によって、持続可能な社会に向けた企業の役割はますます⼤きくなり、特に経営リスクの回避と新たなビジネスチャンスの獲得による持続可能性を追求するためのツールとして“SDGs”の活⽤が注⽬を集めています。
(出典)NPO法人 日本サステナブル投資フォーラム公表資料より環境省作成
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_02.html
こうした流れの中で、法律も改正され、企業の環境への取り組みが、企業の経済活動において、より重要になってきていることがわかると思います。
では、企業はどうしていけばよいのでしょうか。
それぞれの企業で、「環境に対して何ができるのか」をまずは考えることが重要ではないでしょうか。これまで、自分たちの「事業」と「環境」との関係を考えてこなかったという方もいるかもしれません。しかしこれからの時代、考えを進めておかないとどんどん取り残され、企業の経営にも影響が出てくるようになってしまう可能性があります。そうならないためにも、「環境」というものを「考え」、「行動」し、それを「見える化」していく必要があります。
例えば、「森を持っているので、何かに活用したいが、どうすればよいのかわからない」という場合は、「事業活動によるカーボンニュートラルを目指す」として、自分たちの事業活動で発生するCO2と所有する森の二酸化炭素吸収量がオフセットできているか等を見ていくことも可能です。「森の価値」=「炭素吸収量」を把握して、足りていなければ、自分たちの事業活動の見直しをしたり、新たな吸収原の獲得等を考えたりと、改善することが出てくるはずです。さらに、これらの行動を公表していくことも重要です。
このように「環境」というものに長くかかわってきている弊社では、「何をしたらよいのかわからないけど、何かしたい」と考えている皆様と一緒に、できることを考え、行動していくお手伝いをしていきたいと考えております。