生物多様性シリーズ Part2
株式会社エコニクス
顧問 富士 昭
「種数の多さ」は外見的には生物多様性の豊かさを現しているように見えますが、それぞれの種は生物群集とその集合体構成における機能的役割の違いがあるので、生物多様性の保存には多様な尺度による客観的な評価が必要となります。しかし、このような評価は地域における群集を構成する全部の種の間に成立している物質交代やエネルギ-流転の群集への質的・量的寄与を知ることで種の機能を完全に順序づけることが前提となり、現実には不可能に近い難問題となります。そこで、次に示すような特徴のどれかをもつ種の保全を追求することが、その地域の生物多様性の保全に大きく貢献することができる実用的な手法とされています。
① 生態的指標種:同じような生息場所や環境要求をもつ種群を代表する種。
② 鍵種:生物群集における種間相互作用と多様性の要となり、失われることにより群集や生態系に変質がもたらされるような種。
③ 傘種:広い生息範囲を要求する為にその種の生存には自ずと多数の種の生存を必要とする種。普通、生態系ピラミッドの最高位に位置する消費者がこれに該当する。
④ 象徴種:特徴的な形態や色彩によって特定の生息場所の保護を強く印象づけることに役立つ種。
⑤ 危急種:希少種や絶滅の危険の高い種。
特に危急種について国際自然保護連合は、種の生活史の中で最も脆弱な発育段階が必要とする生息域とその環境内資源の利用可能状況から生存の可能性を推定する個体群存続可能分析を採用して、「絶滅危惧ⅠA類」:5年以内に50%以上の確率で絶滅する可能性がある種、「絶滅危惧ⅠB類」:20年後に20%以上の確率で絶滅する可能性がある種、「絶滅危惧Ⅱ類」:100年後に10%以上の確率で絶滅する可能性がある種、の3つの範疇に分けています。
我が国では環境庁が動物を、日本自然保護協会と世界自然保護基金日本委員会が維管束植物を対象としてこれらに該当する種のリストをレッドデ-タブックとしてまとめており、生物多様性保存への大きな力となっています。もともと、生物多様性の持続可能な利用とは生物の多様性を長期間にわたって減少させないような方法で生物の多様性の構成要素を利用することを意味しており、それには生物多様性に与える影響を最小限に抑える経済的発展が鍵となります。生物群集のもつ自己組織力・自己修復作用を見極めた生物多様性の利用、危急種の回復事業、生物圏保全地域の設定などの保全生態学に基づいた技術的手法が考えられ実施されていますが、多様性の維持にはこうした技術的手法の発展と共に、何よりも生物多様性への影響を最小限に留めるための人間による社会・経済的手法の選択がより重要です。
国際条約としたのもここに問題があるからと思われます。