生物多様性シリーズ Part3
株式会社エコニクス
顧問 富士 昭
生物にみられる形態や生態に関する多様な表現形質は、自然淘汰によって環境に適応するような過程をへながら進化してきたと考えられています。このような自然淘汰による適応進化は同じ種の集団内でおこるので必ずしも種の多様化にはつながらないにも関わらず、今日の地球上の生物多様性は多数の種の存在によって実現されています。そこには種の分岐があったと考えるほかありません。生物の表現形質はDNAに刷り込まれて次世代に引き継がれますが、ごく稀にDNA複製にエラ-が生ずる事で集団の中に形質の異なる個体があらわれる事があります。表現形質の変化は環境への適応の仕方を変え、それが継代的に引き継がれると数百万年の後には種の分岐がおこるといわれています。すべての生物は他の生物となんらかの関わりをもちながら生活しており、従ってある生物にとって他の生物は環境となります。この生物的環境は無機自然環境よりもはるかに多様であると共に変動性にも富んでおりますので、生物の適応進化には生物的環境が大きな影響を及ぼしているに違いありません。こうした生物間相互作用で関わりあう多くの生物にとっては、相互作用それ自体が更に新しい環境を創り出すことで適応進化を継続させて種の分岐が続いてきたと考えられています。
では、種分化の結果として生活型を異にする多くの種が生物多様性を成立・維持させている機構はどのように考えられているのでしょうか。これまでは、限られた生活資源を増加する同種個体と同じ資源を利用する他種間での競争は避けられず、生存競争の為に有利な形質変化が進化をもたらしたという説が支配的でしたが、自然界ではこうした競争現象は殆ど観察できない事が解ってきました。こうした事実に基づいて最近、受け入れられている説を簡単に紹介します。その1つは、生存競争を避ける自然の仕組みによる「競争排他に抗する理論」です。同じ生活資源を利用する他種との共存が許されているのは種数に応じて相互重複を少なくするような生活資源の利用分けがなされているためで、これが競争を避けるための生物種間に働いている生存戦略であり、住み分け、生活行動の時空間的差、食性の質的許容範囲の差、種による食物獲得の順位制など、よく観察されている現象がこの仕組みのあらわれという訳です。もう1つは、生物間の相互作用が創り出す間接的効果の影響を重視した「種間相互作用のネットワ-ク効果」論です。捕食者であるヒトデによりイガイが摂食される事で空間ができる為に小型腹足類の多くの種が着生生活を保障され、ヒトデ除去がかえって種数の減少を結果させるという例がこれで、種間関係のネットワ-クにおける競争と協調の関係が相互に促進され、相互に媒介される結果がその機構という事です。