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エコニュースVol.178

2008年04月01日

<海の生物シリーズ Part11・カギツメピンノ>

カクレガニのような生き物は・・・

株式会社エコニクス
環境事業部 水域モニタリングチーム 岩渕 雅輝

 今回はカニのお話しです。下の写真を見て下さい。なんだか癒し系のほんわかしたイラストみたいですね。写真の中のいちばん大きな個体で甲羅の長さが1.5cm程度です。目は腹側の写真でもおわかりのように、かなり小さい黒い点のようです。普通のカニの目は柄の先端に着いていて体から突き出ていますが、このカニの目はまるであってもなくてもいいような感じですね。


全体の写真


腹足の状態

 このカニは3月の初めに噴火湾での調査時に、ムラサキイガイの中から見つかったものです。写真の通り大きいのから小さいのまで様々な大きさのものが出てきました。このカニは分類学的に言いますと、カクレガニ科シロピンノ属カギツメピンノとなります。住処はイガイ・ムラサキイガイ・イワガキ・アズマニシキ・ヒオウギガイ・バカガイ・ハマグリなどの二枚貝の中です。二枚貝の中にいますので外敵に襲われることがないため、それほど目が発達しなくてもいいのでしょう。
 このカニは日本の沿岸から韓国・中国に棲んでいて、仲間(シロピンノ属)は日本で10種類ほどいるようです。この仲間のタイラギピンノと言う種類はタイラギガイの中に、シジミピンノはシジミ(ヤマトシジミ)の中にいます。
 ものの本には、共棲していると書いてあります。共生とは一字違っていますので、カギツメピンノにとって言わば「家」、隠れ家として二枚貝の中(専門的には外套腔と言います)を利用していると言った所でしょうか。必ずしも二枚貝とカニと双方に利益になるような「共生」をしているのではないと思います。
 このカニはどんな餌を食べるのか。まさか二枚貝の鰓(エラ)や軟体部を食べるとは思えません。そんなことをすれば自分の家が死んで(壊れて)しまいます。
 このカニは結婚相手を探すために群れをなして泳ぐ(生殖遊泳と言います)そうです。普段は貝の中にいてそのような時に海中に出て泳ぐそうです。いったいどうやって貝の中から抜け出すのか。イガイなら餌を摂るためや水中の酸素を取り入れるために貝殻を少し開きますが、バカガイやハマグリなどは滅多に貝殻を開かないでしょうから、貝の外へ出るにはどうするのか、ましてや特定の貝の中に入り込むにはどうするのか、ほんと不思議ですね。ただ、生殖遊泳はオスとメスが出合うためですが、両方が同じ貝の中に入っていたこともあるそうですから、必ずしも泳いで相手を探すだけではないようです。
 このカニの類、カクレガニの仲間にはナマコの中に棲むものや、カクレガニなのにそうした隠れ家を持たずに、専ら泳いでばかりのものもいます。
このように水産業で重要な生物とみなされない種類は、その生態などの研究がなされないのが常ですので、このカニと二枚貝の関係や二枚貝の中でどんな生活を送っているのかなどは判らないのです。
 人知れず生きている生き物はまだまだ沢山います。但し、生態系の中で何らかの立場にいることだけは確かです。
 さて、私達人間(分類学的にはヒト)は生態系の中で何らかの立場(役に立つ)にあるのでしょうか。こうして、30年間以上にわたって水の中の生物を相手にしていますとヒトはもっと慎ましく生きねばならないと思わざるを得ません。尤も、人の管理する里山が豊かな自然を育んで来た例もあります。
 社会のスピードを今一度ゆっくり目にして、食べ物や生き方を足下から見直すことが必要だと思います。車の増化や不夜城と化した都市をどうにかしないとCO2削減を声高に唱えても空しいばかりです。嘗て、我が国は世界に冠たるリサイクル社会を生み出していました。それは江戸時代です。もっともっとその頃の知恵に学ぶ必要があります。また、北海道の先住民族の自然への接し方にも・・・。

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