<海の生物シリーズ Part10>
株式会社エコニクス
環境事業部 水域モニタリングチーム 岩渕 雅輝
先ずは写真をご覧下さい。どちらの種類も大きさが1.5cm位のエビですが、白い方がクラゲモエビという種類、もう一つは大きな鋏を持ったテッポウエビの仲間です。
クラゲモエビはテッポウエビのように鋏を持った頑丈な脚がありません。ということはクラゲモエビは泳いで生活するエビ、テッポウエビは海底で生活するということになります。テッポウエビはまだ若い個体のために種を同定するまでには至りませんでした。ただ、鋏の特徴や目の部分の特徴からテッポウエビの仲間ということが分かりました(写真では判りにくいとは思いますが右の鋏が左の鋏よりも大きくて形が違っています)。
さて、クラゲモエビですが、この標本は2年前に日本海で見つかったものです。時季は12月の中旬。この年は以前のエコニュースにありましたように例のエチゼンクラゲが北海道沿岸に沢山現われた年でした。見つかった当初は全体に赤みがかっていたのですが、アルコールに着けたままにして置きましたので写真のように白く変色してしまいました。
このエビを見た当初は私の記憶にないものでしたので面食らってしまいましたが、下関にあります水産大学校の元教授林健二先生による詳しい解説がありましたので、モエビ科に属するクラゲモエビだと同定できました。クラゲモエビは名前の通りクラゲに共生するエビですので、大きなクラゲにまとわりついている筈と推理して、どうやらエチゼンクラゲと一緒にこの北海道にやって来たと推測しました。このエビは暖かい海にいるエビですので冷たい北海道の海では子孫を残す程は生きられなかったようで、1月には全くいなくなってしまいました。昨年はエチゼンクラゲがその前年程は来遊しなかったからかクラゲモエビの目撃例はなかったようです。
もう一つのエビ、テッポウエビの仲間のことですが、このエビの類はサンゴ礁に棲み、巣穴を掘って生活するエビとして有名ですし、鋏を打ち鳴らして威嚇するという器用なこともします。
写真の標本は今年の2月に日本海の海岸で見つけました。テッポウエビの類は北海道ではこれまで暖かい道南の数箇所(主に津軽海峡)で見つかっています。私はこれまでこのエビ類の子供(幼生)をプランクトンサンプルで見たことがあるのですが、写真のようなこれぞエビという形で見たのは初めてでした。このエビはクラゲモエビと違って海底で生活するのですから、おいそれとは分布を広げるという訳には行きません。子供(幼生)はプランクトン生活をしますので流れに乗ってやって来てそこに住み着いたというところでしょうか。ただ北海道沿岸ではかなり少ないです。どこにでもいるわけではありませんし、北海道では暖流の影響のある日本海沿岸や津軽海峡から噴火湾程度にしか生息しないと考えられます。
どちらのエビも生息に適する水温は高めで、北海道で見つかるということは大きな目で見れば温暖化の影響の所以かと思います。最近はオホーツク海沿岸でマンボウが見つかったりしています。紋別のオホーツクタワーでプランクトンを細かく観察しておられる浜岡さんのお話では紋別では暖流に棲むプランクトンが頻繁に見つかるようになったということですし、私自身も4月の始めから暖流性の動物プラントンが網走沖で見つかったことも経験しています。オホーツク海へ入り込む宗谷暖流の勢力が強くなっていると思われます。因みに、陸上での話ですが平均気温が1℃上昇すると100km南に行ったと同じことになるそうです。