人工構造物シリーズ Part3
株式会社エコニクス
主幹研究員 山内 繁樹
魚礁設置がコンクリートによる本格的な事業として始まって以来、多くの議論が交わされてきました。魚礁の陰影に集まるとする説は影のできない深所でも集まる、隠れ場説は魚礁性の高いカサゴなどにはあてはまるが一般的ではない、餌に集まる説は魚礁を入れた直後、魚礁に付着生物がなくても集まるなど各説ともに疑問が呈されてきました(森 1976)。
最近、古くからの資料を丹念に調べた結果、餌の観点から説明されることが多くなっています。手掛かりは2つありました。一つはROV(遠隔操作無人探査機)による魚礁周辺の映像記録です。ROVの映像には餌を取る瞬間が多く含まれていました。魚礁の陰から飛び出して小魚を獲る根付魚、海底の底生生物を獲るマガレイ、流れてくる浮遊物を食べるマアジなどが確認できました。
今一つは、元北海道中央水産試験場の横山研究員が残した1962年から約20年に渡る162回の漁獲試験の結果です。人工魚礁、天然礁、対照区の漁獲試験から得られた漁獲サンプルの胃内容物の集計を試みました。うち人工魚礁での漁獲サンプルは10,548件、この内、胃に内容物が入っていたのは2,406件、確認された胃内容物は2,440件でした。意外なことに胃内容物で一番多かったのは二枚貝の609件でした。殆どがマガレイに食べられています。マガレイは海底に伸び出た水管を盛んに食べることが知られていて、食べられた水管は再生することも知られています。
次に多いのは海底表面を移動する動物であるカニ類・ヤドカリ(309件)やエビ類(80件)、そして海底面の下に棲む生物である多毛類(120件)やユムシ(84件)でした。これら底生生物のほかには海中で泳ぐ動物ではイカナゴ、魚類・イカ類が多く、併せると667件で二枚貝に匹敵しました。他にも付着生物等があるのですが底生生物が多いことに注目して下さい。底生生物の餌は共通してデトリタス、つまり植物プランクトンを主とする残骸です。これで材料が揃いました。魚礁に魚が集まる理由を推定してみましょう。
植物プランクトンは太陽の恵みを受け、海表面で大量に発生してその残骸がマリンスノー(デトリタス)として沈降します。海の流れによりデトリタスは魚礁周辺に溜まりますのでこれを食べる二枚貝他の底生生物が増えていきます。底生生物は春先から夏にかけて一斉に産卵し、大量の子供たち(稚仔プランクトン)が魚礁周辺に溜り込むのです。
一方で、春先は多くの魚類などの孵化時期でもあり、孵化した幼魚は稚仔プランクトンを餌として成長します。魚礁で生まれた稚魚、魚礁に集まってくる幼魚にとって最良の餌環境ができあがるのです。あとは、より大きな魚が小さな魚を食べにくるご存じの食物連鎖です。
図 魚礁中心からの魚の分布
図は魚礁を中心とする魚の分布です。魚礁上や直近にはヒラメ、根付魚、アイナメと比較的大きな魚食魚が分布します。マガレイは魚礁の周りの二枚貝や多毛類を食べています。その周りにカレイ類などを食べるカジカ、その外にさらに大型魚食魚のアンコウが集まってきます。カレイ類は砂底にすんでいますから魚礁との関係が疑問に思われていました。餌となる二枚貝が周りに溜り込むことを考えれば魚礁に集まるのは当然と言えます。詳細に調べてみると、魚礁は太陽と海の恵みを得て魚を集めていると言えるのです。