<海の生物シリーズ Part32>
株式会社エコニクス 環境事業部
海域環境チーム 近藤 めい子
砂浜海岸と聞いて、どのようなイメージが頭に浮かぶでしょうか?即座に浮かぶものとしては、おそらく海水浴、サーフィン、ビーチバレーといったレジャーに関することだと思います。北海道なら砂浜でジンギスカンという方もおられるかもしれませんね。
では、砂浜海岸の生態系となるといかがでしょうか?おそらく、ハマナスの群落、ウミガメの産卵、海鳥等の大型の生物に関連するイメージが思い浮かぶ方が多いと思います。
砂浜海岸は、砂と海という一見すると単調な景色から、多様性に乏しい環境であると思われがちです。それゆえ他の沿岸環境にくらべると調査や研究もあまり活発ではありません。
例えば、環境省では生態系の異変をいち早く捉え自然環境の保全を進めるため、平成15年から定量的かつ長期にわたり環境情報の収集をおこなっており、全国に1000ヶ所程度のサイトが設置され、干潟、藻場、サンゴ礁等については包括的な調査が実施されています(モニタリングサイト1000※1)。一方、砂浜海岸については「ウミガメの上陸・産卵」という限定的な調査が行われているにすぎません。
しかし実際の砂浜は、波の上げ下げに加えて潮汐による冠水と干出を繰り返すスワッシュゾーン、海岸へ打ち寄せる波が砕けるサーフゾーン、また海岸後部に広がる砂丘のように、砂浜海岸の生態系は多様な環境によって支えられているのです。
とくにスワッシュゾーンには、ともすると見落としがちな小さな命がひしめいています。試しに砂を掘り返してじっくり観察してみると、スナホリムシ※2や多毛類※3が動いている姿を見ることができるでしょう。海水浴で波打ち際に座っていたりしていると、チクチクとした刺激を感じることがありますが、その原因のひとつがこのスナホリムシです。
また、波が上げ下げしているところをじっと見ていると、何かがコロコロと転がる姿が見えるかもしれません。この転がるものの正体は、波に乗って移動している二枚貝です。私が学生時代に研究のフィールドとしていた鹿児島県の吹上浜では、ナミノコガイ※4が波に乗って転がる様子がよく見られました。
機会があれば早朝もしくは夜の砂浜海岸を訪れてみてください。昼間は砂の中に鳴りを潜めている生き物たちが活発に動き回る姿を見ることができます。とくにカニたちが一斉に穴から出て活動する様子は圧巻で、その足音さえ聞こえてくるようです。
間もなく北海道にも短い夏がやってきます。今年の夏はぜひとも砂浜に足を運び、足元に広がる砂の世界に目を向けてみてください。小さな生物との出会いは、宝探しのようなワクワクした気持ちを与えてくれることでしょう。
<注釈・参考文献>
※1:環境省 モニタリングサイト1000 < http://www.biodic.go.jp/moni1000/index.html >
※2:スナホリムシ
岸壁等でよく見かけるフナムシと同じグループに属し、世界には45属320種以上いる
ことが知られています。海底を歩行し、砂泥底に潜っているほか、材木や柔らかい岩石
に穿孔し、海中を活発に泳ぎ回ることもできます。
※3:多毛類
釣り餌でお馴染みのゴカイやイソメが属するグループで、その名の通り、体節に多数の
剛毛が生えています。全ての海域およびその砂泥底に分布し、汽水や淡水、湿った土中
に棲むものもあり、幅広い生息域をもつグループです。
※4:ナミノコガイ
潮間帯や砂底に生息する二枚貝で、別名ナミアソビ(波遊)と呼ばれ、波に乗って移動す
る習性があります。 殻長2.5㎝程度と小さめですが濃厚な旨味があり、ごく一部の地域
では食用として用いられています。
西村 三郎(1992)原色検索日本海岸動物図鑑[Ⅰ]. 保育社, 大坂, 425.
西村 三郎(1995)原色検索日本海岸動物図鑑[Ⅱ]. 保育社, 大坂, 663.
本間 三郎(1983)学研生物図鑑 貝Ⅱ. 株式会社学習研究社, 東京, 294.