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エコニュースVol.320

2020年02月01日

フクロウと人との関わり

株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当 米田 豊

 

 その愛らしい姿や神秘的な生態から、世界中で様々なシンボルやモチーフに用いられ、しばしば物語にも登場するフクロウ類。

 古代ギリシャでは、技術・工芸・芸術の女神である守護神アテナのシンボルとされていました。日本では、フクロウに「福来郎」、「不苦労」などの当て字が充てられ、フクロウをモチーフにした工芸品が縁起物として親しまれています。北海道では、サッカーチーム 北海道コンサドーレ札幌のエンブレムやマスコットのモチーフとしてシマフクロウが用いられています。また、アイヌの人々は、シマフクロウを村の守護神コタンコロカムイとして、エゾフクロウ(フクロウの北海道産亜種)を猟運の神イソサンケカムイとして崇めているそうです。(シマフクロウとエゾフクロウのアイヌ語での呼び方や意味は複数有ります。)

 このように、フクロウ類は私たちの文化に深く関わる知名度の高い鳥類ですが、夜行性であるため人目に触れる機会が少なく、その生態や人間との直接的な関わりはあまり詳しくは知られていません。

 

 フクロウ目の中には、フクロウ科とメンフクロウ科の2科があり、あわせて世界に約136種が生息し、南極を除くほぼ全域に分布します。このうち、日本で繁殖が確認されているのは、フクロウ科の9種とされています。

 フクロウ類の大部分は夜行性の捕食者であるため、日中のタカ類に相当する夜のハンターと言われています。フクロウ類の大きな眼は、光を効率よく捉える構造となっており、人間が物体を認識することができる光の1/10~1/100程度の弱さでも獲物を見つけることができます。また、聴覚も鋭く、円い顔面がパラボラアンテナのような集音の役割を果たしています。さらに、耳の位置が左右相称でないものもいて、音を立体的に聴くことにより、獲物の位置を特定するのに役立ちます。羽毛が柔らかいため、音を立てずに飛ぶことができ、気づかれることなく獲物に接近します。

 これらの身体的機能は、暗闇の中で小動物や鳥を捕らえるための適応とされています。

 

 このような特徴を持つフクロウ類ですが、私たちの暮らしに直接的な関わりがあります。

 例えば、フクロウの主食がノネズミであることから、江戸時代から日本各地の畑に杭を打ち、フクロウ用に止まり木を設置し、また、東南アジアでは田畑や果樹園の近くに営巣場所を提供することで、農作物を荒らすノネズミの駆除に利用しているそうです。

 青森県のリンゴ園では、リンゴの木の樹洞に営巣するフクロウが農家の人達には馴染み深い鳥でした。しかし、近年、フクロウが営巣できるような木が減少したため、リンゴの樹皮を齧る(かじる)ハタネズミが増え、リンゴの栽培木への被害が深刻化していたそうです。このため、リンゴ園に巣箱を設置して、フクロウの繁殖支援を始めました。

 その結果、フクロウはハタネズミの多い園地で営巣し、巣の周辺ではハタネズミの個体数が平均63%も減少することが明らかとなり、農地におけるフクロウの繁殖支援が獣害管理に有効であることが示されました。

 

 また、フクロウは技術開発に有効なアイディアを私たちに提供してくれています。「バイオミメティクス(バイオミミクリー)」という言葉をご存じでしょうか。これは、日本語では「生物模倣技術」などと訳され、自然の造形や構造・要素を模倣して、人間の抱える問題を解決することです。例えば、サメの皮膚の微細な突起を模倣することで水の抵抗を低減する水着が開発されたことや、蚊の口器を模倣して痛みの少ない注射針が開発されたことなどがバイオミメティクスの事例と言えます。

 これらと同様に、フクロウにもバイオミメティクスの事例があります。フクロウの風切り羽根にあるノコギリ状のギザギザが空気抵抗を少なくし、静かな飛行が可能になることからアイディアを得て、新幹線のパンタグラフに風切り羽根を模倣したギザギザをつけることにより、新幹線の走行中の騒音低減に成功したそうです。

 

 このように、フクロウ類は古代の頃から私たちに馴染みが深く、様々なモチーフやシンボルなどに用いられるだけではなく、ネズミによる農業被害を減らす役割を果たしたり、技術開発のアイディアとなったり、私たちの生活にとても関係の深い鳥であると言えます。

 このため、私たちはフクロウ類がこの先も生存し続けられるように、餌資源や営巣環境を保全し、共存共栄を図っていく必要があると考えます。

 


写真 エゾフクロウ 著者撮影

 

 

<参考資料>

中村登流・中村雅彦.原色日本野鳥生態図鑑〈陸鳥編〉.保育社(1995)
日高敏隆 監修.日本動物大百科 第4巻 鳥類Ⅱ.平凡社(1996)
小野泰正.フクロウについての考察 -ことにシンボル・モチ-フとしてのフクロウ-.アルテスリベラレス.No.59.岩手大学人文社会科学部(1996)
公益財団法人 アイヌ民族文化財団.アイヌと自然デジタル図鑑. 
http://www.ainu-museum.or.jp/siror/
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』.フクロウ.
https://ja.wikipedia.org/wiki/フクロウ
大学ジャーナルオンライン.りんご園の害獣ハタネズミ対策にフクロウが効果的 弘前大学と岩手大学(2018年11月25日). 
https://univ-journal.jp/23708/
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』. バイオミメティクス. 
https://ja.wikipedia.org/wiki/バイオミメティクス
日本野鳥の会.カワセミと500系新幹線電車.日本野鳥の会が贈る、野鳥を楽しむポータルサイト BIRD FAN.
https://www.birdfan.net/

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