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エコニュースVol.321

2020年03月01日

海の中で生きるクモのお話

株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当 武田 康孝

 

 今回、話題に取り上げるクモは、クモと言っても私たちが陸上で見る「網を張り、虫を捕食する」あのクモのことではありません。陸上のクモと同じ節足動物ではありますが、海の中にいるウミグモというクモのお話です。

 

 ウミグモとは、ウミグモ綱((かい)(きゃく)綱)に属する節足動物の総称のことで、別名ユメムシ(夢虫)とも呼ばれます。綱名の「皆脚」という名に相応しく、胴体は小さく、体のほとんどが4対8本(稀に5対10本や6対12本)の脚からなる動物です。名前から大まかな容姿は想像でき、下の写真のように遠目では陸上のクモのようですが、ウミグモは陸上で見る「クモ」の仲間ではなく、別な分類群の生きものになります。

 大きさは1cmほどの小型のものが多いですが、深海や極地には脚を伸ばすと数十cmまでに達する大型のウミグモもいます。

 

ウミグモ類(※ピンセット先の幅は約1mm)

 

 このウミグモですが、1,000種以上の種類がいると言われ、日本近海では約150種程度が報告されています。化石記録ではおよそ5億年前の古生代カンブリア紀の記録があるそうです。また、世界中の海域において潮間帯から深海まで、熱帯から寒帯まで広く分布しています。普段は海底の岩や海藻などにしがみつき、ゆっくりと歩きますが、時には脚をバタバタと動かして泳ぐ(流される?)こともできます。人間には無害とされ、脚の細さから華奢に見えますが、その生態については未だに不明な点が多い生きものです。

 

 謎が多いのですが、生態について興味深い繁殖行動を行うことが分かっています。それは雄が抱卵を行います。ウミグモ類の多くは雌が産卵すると、雄はその卵を集めて脚の先端から粘着物質を分泌して卵塊を形成します。さらに、雄は担卵肢というウミグモ特有の付属肢に卵をくっ付けて(下図を参考)、孵化まで保護行動を行います。実は華奢に見えるのは姿だけなのかもしれません。

 

ウミグモ類の体制模式図(岡田ら(1965)を参考に作成)

 

 下の写真のウミグモはイソウミグモ科の1種(Ammotheidae)で、潮間帯の石の下や海藻の間などから採集され、北海道においてもよく見られる種の1つです。脚が取れてしまう個体が多く、なかなか完全な個体で採集されることは珍しいです。その特徴的な形態はついつい時間を忘れて顕微鏡を見入ってしまいます。

 

  

イソウミグモ科の1種

 

 また、カイヤドリウミグモ(Nymphonella tapetis)という種は、その名の通りアサリなどの二枚貝に寄生することが知られています。普段は人間には無害とされる生きものですが、2007年に東京湾では大量発生し、アサリの大量斃死を引き起こし、漁業被害を与えたことがあります。とはいえ、普段は宿主のアサリと共に知らず知らずに食べられていることも多いようです。北海道では見る機会はまだあまりないですが、北海道ブルーリスト2010では「注意種」として記載されています。本州産のアサリなど食べる際は貝殻の中を注意深く見ると出会えるかもしれません。

 

 海の中には、普段目にすることのない多くの生きものがまだまだ生息しています。今回はウミグモという生きものを紹介しましたが、そんなマニアックな生きものたちを紹介することで、皆様にその存在を少しでも覚えていただければ嬉しい次第です。

 

 余談ですが、脚部を除いた体(特に吻の部分から頭部)の部分をよく見ると、アメリカのSF映画に出てくる宇宙船の乗組員(地球人)を次々と襲う地球外生命体(宇宙生物)の頭部に見えるのは私だけでしょうか。。。

【参考文献】

岡田要・内田清之助・内田亨 監修(1965)新日本動物図鑑〈中〉.北隆館.

西村三郎(1995)原色検索日本海岸動物図鑑[Ⅱ].保育社.

Nymphonella tapetis(カイヤドリウミグモ)「水産食品の寄生虫検索データベース(DPAF = Database of Parasites in Fish and Shellfish)」(http://fishparasite.fs.a.u-tokyo.ac.jp/umigumo/umigumo.html

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