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エコニュースVol.335

2021年05月01日

地球環境変動下での資源管理はむずかしい

株式会社エコニクス 環境事業部
海域環境チーム 技術顧問 松永 靖

 

 漁業法が改正され、水産資源の管理はTAC管理が基本となりました。すべての種類の水産資源ごとに、最新の科学的知見を踏まえて実施された資源評価に基づき、資源管理の目標(目標管理基準値など)を設定し、その目標の達成を目指したTACによる管理を行い、最大持続生産量(MSY)を実現できる資源量に維持、回復するとしています。資源管理推進のためのロードマップも公表されています。

 


 資源評価に使用される漁獲データは、たいてい1年以上前の年の漁獲統計の漁獲量を使い、それをもとに今年を推定し、そこから来年の資源を予測している実態にあります。今後の資源予測には、ICTなどを活用して漁獲データの迅速集計や、人工衛星に搭載される観測用機器、船舶に搭載される魚群探知機その他の機器を用いて、情報を効率的に収集し、漁獲統計だけでなく、別の独立したデータなども活用し資源評価をしていくとしています。

 改正漁業法における資源管理の実施方法は、たしかに合理的です。ただ、水産資源管理学は、経済学同様に再現可能性がなく、それが科学的かどうかは反証可能性があるかないかによって決まります。コンピュータで資源方程式にデータを打ち込むと、自動的に数値の答えは出てくる一方で、その仮定や証拠が真実でないと立証する意見があるから学問的に科学的であるということです。

 ハタハタという魚がいます。道内では、石狩沿岸の日本海側のほかに、噴火湾から道東太平洋にかけて漁獲があります。北海道以外の主産地は、島根から兵庫県の地域と、秋田県周辺です。とりわけ秋田県のハタハタは「秋田名物八森ハタハタ」と民謡秋田音頭で謡われているとおり、秋田の県魚であり、県民自慢の魚となっています。
 その秋田県のハタハタは、昭和50年(1975年)まで秋田県内で1万トン以上漁獲がありましたが、平成3年(1991年)に70トンまで減少したため、平成4年(1992年)から平成7年(1995年)の3年間、全面禁漁を実施しました。平成16年(2004年)には3258トンまで回復したものの、その後は減少を続け、令和2年(2020年)は409トン(速報)と漸減が続いています。
秋田県のハタハタは、全面禁漁を実施したことで「資源管理の優等生」と言われています。全面禁漁ができた理由は、漁業者だけでなく、行政、研究機関、秋田県民全体にハタハタをなんとかしたいという強い思いがあったこと、漁業者等を交えた100回を超える会合を各地区で開き合意形成を図った関係者の努力、さらに、ハタハタ全面禁漁中に秋田県では他漁業で収入を確保できたという背景があったためです。
 ハタハタ資源は昔から大きく変動するので、全面禁漁しなくても資源回復したのではないかとの意見があり、全面禁漁の効果について検証が行われています。昭和50年(1975年)から平成初頭にかけての急激な資源減少は、レジームシフト等による環境変動によりもたらされたこと、その後、資源増加がみられなかったのは、漁業による高い漁獲圧が続いたこと、全面禁漁あけの平成7年(1995年)以降資源が回復したのは、禁漁による産卵親魚量の確保が大きかったこと等が明らかになっています。また最近、漁獲量が減少しているのは、高水温等により秋田県周辺の漁場形成が少なくなったことが原因の一つにあげられています。

 資源管理において、次世代の子供の数(産卵数)を減少さないために産卵親魚量は一定数確保しなければなりません。しかし、秋田県のハタハタも昭和年代後半のレジームシフト等による環境変動が発生している中で、たとえ現在のTAC規制を実施していたとしても、現状より資源減少を食い止め、資源増大が出来たかはわかりません。
 秋田県のハタハタ資源の急減と同様に、現在、日本各地で海洋環境の変化により、厳しく資源管理していても漁獲が激減したり、ほとんど漁獲されていなかった魚種が急に増えたりするなどの変化が見られています。

 このような海洋環境の変化が大きいときは、資源の減少や増大しない原因が環境要因なのか漁獲圧などの人為的な要因なのか、きちんと見極め、関係者が出来る最善の取り組みを行うことが重要です。それには、普段から海の状況、餌の状況、魚の状況などの海洋の様々なデータの収集や蓄積が必要です。それらのデータを継続して集め、過去と比較しながら、自分たち前浜の様々な状況変化の内、今までより悪くなっているところはないかを常々チェックしていくことが大切です。

 人間の健康診断でも、たいていの医者は、病気になるから酒、タバコをやめろと言います。これからはすべての水産資源について国が資源の診断をすることになっています。人間の健康診断同様に、水産資源に対して、病気になる前に獲る数量上限を機械的に設定することは行政コスト的に合理的で効率的ですが、環境変動が大きいときは、TACを設定しても確実に資源が増大する保証はありません。海洋環境が変化する中で、自分たちの前浜の海や水産資源が健康かどうかは、ドクターストップがかかる前に、資源を利用する関係者が早期に悪いものを発見して対処していきたいものです。

 弊社は、環境保全(エコロジー)と経済発展(エコノミー)の両立を目指し名付けられた会社です。水温、水質、魚卵・稚仔魚調査・分析、動物・植物プランクトン調査・分析などを行い、生物の生育生息環境や水産資源の動向について、解析・評価し、その結果の考察も行えます。地域の水産資源でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。


参考資料
1. 漁業法等の一部を改正する等の法律の概要について(平成30年12月) 農林水産省 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-19.pdf
2.新たな資源管理推進に向けたロードマップ(令和2年9月30日) 水産庁
https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/attach/pdf/200930-1.pdf
3. 水産政策審議会 第93回 資源管理分科会 配付資料「資源管理目標を定めるための新たな資源管理手法の検討状況」(2019年3月)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/attach/pdf/190307-6.pdf
4.令和2年第3回ハタハタ資源対策協議会資料 秋田県水産振興センター
https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/53477
5.OPRI 海洋政策研究所 Ocean Newsletter 第247号(2010年11.20発行) 「秋田県ハタハタ漁獲量は、なぜ回復したか」
https://www.spf.org/opri/newsletter/247_2.htm

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