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エコニュースVol.338

2021年08月01日

藻場づくりの機運

株式会社エコニクス
取締役 田中 禎孝

 

 「藻場(もば)」と聞いてどんなことをイメージするでしょうか。

 一般的にあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、サンゴ礁のようにたくさんの海藻に色とりどりの魚が集まっている姿でしょうか。コンブ、ノリ、ワカメなどの海藻養殖の生産現場でしょうか。それとも、「藻(も)」というだけあって水槽の壁面にへばりついたコケのようなものが付着した状態でしょうか。

 いずれも間違いではありません。藻場は「海の森林(もり)」ともいわれ、沿岸域に形成された海草、海藻類の群落で、繁茂する海藻の種類によってアマモ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場、コンブ場などと呼ばれています。その藻場は磯焼け(海の砂漠化)に代表されるように、ここ数十年の間に急激に減少し大きな問題となっています。

 なぜ、大きな問題となるのでしょうか?それは、藻場には “生命の源”ともいえるたくさんの機能があるからです(参照;エコニュースVol.327「磯焼けの現状と漁業の未来(西川)」)。藻場は陸上の森林と同様に無機物(窒素、リンなど)を取り込み水や底質を浄化し、産卵場、餌場を提供することで魚類のみならず様々な生きものの再生産、成育の場となります。また、これらのメカニズムをシュノーケリングやダイビングをとおして実際に生きものに触れ、眺め、感じることは絶好の環境学習、癒しの機会となります。さらに最近では、政府が掲げた2050年カーボンゼロを機運に、海藻の有するCO2吸収機能に高い注目が寄せられています。陸上の森林が吸収するCO2がグリーンカーボンと呼ばれるのに対して、海藻類が吸収するそれはブルーカーボンと呼ばれています。ブルーカーボンの詳細は他に譲りますが(参照;エコニュースVol.329「ブルーカーボンによる地球温暖化防止対策(山岸)」)、政府が推進するグリーン成長戦略のなかでも今後約5年間は技術開発を、2030年以降はカーボンオフセット制度を導入しブルーカーボンを増大させるというロードマップが描かれています。

 

 

図 ブルーカーボン工程表

(経済産業省ホームページ「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 ⑨食料・農林水産業」より引用)

 

 我々が毎朝当たり前のように飲んでいる味噌汁のダシにコンブを利用しているだけでなく、何気なく食している魚介類はもちろん、教育やエンターテイメント、さらには地球温暖化対策にまで、我々の生活は随所に藻場によって支えられています。それだけに、藻場を残し、造っていくことはとても重要で、そこに弊社も一民間企業でありながら大きな使命を持って日々活動しています。

 

<藻場機能>

  1. 水質の浄化
  2. 生物多様性の維持(涵養効果)
     多様な生物種の保全、産卵・保育場の提供
  3. 海岸線の保全
  4. 環境学習
  5. 保養
  6. 二酸化炭素吸収(ブルーカーボン)

(水産庁ホームページ「藻場の働きと現状」、第3版 磯焼けガイドライン(水産庁,2021)を参照し編集)

 

 現代社会は、人類の活動が環境を激変させる「人新世」の時代と呼ばれています。言うまでもなく、今や気候変動は様々な形で顕在化しており、環境問題は既に将来世代のためだけではなく、今を生きる現代世代にとっても重要となっています。環境問題への関心は欧米を中心に世界的に高く、国連会議でトランプ前大統領を睨みつけたスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに呼応し世界中の若者が環境保全を訴えて学校ストを行ったのは記憶に新しいですね。

 日本でも脱炭素、SDGs、ESG投資などが新聞やニュースで報道されない日はないぐらい環境問題への機運は高まっています。街でSDGsのバッジを付けている人を見かける機会も多くなってきました。それだけ日々の生活のなかで考える機会が増えてきたのだなと感じています。

 藻場に注目すると、つい先日、ブルーカーボンで先行する横浜市、福岡市において造成した藻場をCO2削減分としてクレジット販売し、大手のエネルギー、流通小売、商社企業が購入しました。今後、こういった動きは加速していくと思われますが、経済社会が企業活動において環境対策は無視できなくなってきた、これまでのCSRとは異なった局面に入ってきたと感じます。

 弊社は藻場づくりに長年取り組んでおります。このような企業様の環境対策、また、これらを支援する自治体様に藻場づくりをとおして少しでもお役に立てればと日々技術の向上に努めております。北海道は自然豊かな土地です。雄大な自然を生かして環境対策のリードオフマンとなるべく、この土地に根差しておよそ50年の弊社としても誇りと使命をもって今後も社会貢献、地域社会の発展に邁進してまいります。

 環境対策、藻場づくりでお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。

 

参考資料

  1. 水産庁ホームページ:藻場の働きと現状https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/tamenteki/kaisetu/moba/moba_genjou/
  2. 水産庁(2021):第3版 磯焼けガイドライン
  3. 経済産業省ホームページ:グリーン成長戦略https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html
  4. 堀・桑江(2017):ブルーカーボン 浅海におけるCO2隔離・貯留とその活用
  5. 斎藤(2020):人新世の「資本論」
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