環境問題シリーズ Part7
株式会社エコニクス
環境事業部 調査・計画チーム 大湊 航一
水島新司の野球漫画「ドカベン」での1シーン。主人公の山田太郎が、友人の岩鬼正美に自分の弁当を食べられ怒る場面があります。彼が怒った理由は弁当を取られたことではなく、つき返された弁当箱に米粒が残っていたからでした。曰く「米粒ひとつひとつには七人の神様が入っている。だから残せばバチが当たるんだ。」・・・かつての日本では食べ物のひとつひとつに神が宿っており、それ故に感謝の意をもって食べるという教えがごく普通に伝えられてきました。
大抵の人間が記憶する「もったいない」の原体験は、食べ残しをなくすことであったと思います。私くらいの世代では、父母からの教えもそうですが、テレビのCMで流れていた「もったいないお化け」なども思い出されます。このCMは1982年に電通大阪が製作した公共広告機構のCMで、食べ残された食べ物がお化けになって出てくるといった内容でした。同世代のヒトの多くがこのCMを覚えていると思いますが、日本人の食べ残し総量はCMが放映された当時よりもむしろ増加している傾向にあります。
現在、日本国内における年間の食べ残し総量は約2,000万トン、金額にして11.1兆円と言われており、これは国内の農業・水産業の総生産額である12.4兆円に並びます。つまり日本は、世界中の食糧を輸入する一方で、自国で生産しているものとほぼ同量の食糧を捨てていることになります。「もったいない」という立派な言葉をもつ日本は、世界トップの食べ残し大国でもある訳です。かつてCMで描かれた「もったいないお化け」の正体は、もしかしたら食べ残されて本来の役目を全うできなかった食べ物の中の神が、妖怪となってヒトに仇なすようになった姿なのかも知れません。
食べ残しによるエネルギーのロスは、単純に排出したゴミの焼却に掛かるエネルギーだけでは済みません。食糧の生産・運送・保管に費やされた全てのエネルギーが、捨てた瞬間に「無駄に使用したエネルギー」へと転化されるのです。循環型社会の形成や3R政策を推進するのであれば、まずは大人も子供も関係なく「食べ残しゼロ」を達成する。これが「もったいない」の第一歩だと思います。