株式会社エコニクス 環境技術部
生活環境担当チーム 黒川 江梨花
エコニュースVol.344でも紹介しましたが、2022年4月から水質汚濁に係る環境基準が変更になりました。内容は、六価クロムの基準値および衛生微生物指標として用いられていた大腸菌群数の見直しです。大腸菌群数につきましては衛生微生物指標からはずされ、新たに大腸菌数が指標とされました。今回は、大腸菌群数が衛生微生物指標として何故見直しをされたかをお話したいと思います。
まず、大腸菌群数はふん便性指標として測定する微生物項目の1つであり、大腸菌と大腸菌に性質が似ている細菌の総称のことを指します。そのため、測定値にはふん便汚染のない水や土壌等に分布する、自然由来の細菌も含んだ形で検出されます。実際に、水環境中において大腸菌群が多く検出されていても、大腸菌が検出されない場合があり、大腸菌群数がふん便汚染を的確に捉えていない状況が見られました。
一方、より的確にふん便汚染を捉えることができる指標として大腸菌数があります。大腸菌数は大腸菌群数とは異なり大腸菌のみ検出することができます。大腸菌群に係る環境基準が制定された当時は、大腸菌のみを簡便に検出する技術がありませんでした。しかし、今日では簡便な大腸菌の培養技術が確立されています。そのため大腸菌群数は大腸菌数へ見直すことが適当であると考えられ、2022年4月から水質汚濁に係る環境基準が変更されました。
また、分析方法も最確数法からメンブランフィルター法に変更され、分析結果も推計学に基づいた手法で推定する最尤推定値(MNP/100ml)から、菌を培地で培養し、確認されたコロニー(集団)数(CFU/100ml)を求める形になりました。
新しく指定された大腸菌数の測定方法は、特定酵素基質培地に検水を吸引ろ過したメンブランフィルターを載せ、37℃付近で24時間培養を行い、フィルター上に形成されたコロニーを数えるというものです。弊社が用いている培地では図のように大腸菌群は赤色になり、大腸菌は青色になる性質があります。そのため、青色のコロニー数が大腸菌のコロニー数となります。
大腸菌群(赤色)および大腸菌(青色)のコロニー
[黄色の丸が大腸菌]
前述したように2022年4月から水質汚濁に係る環境基準が変更されましたが、排水基準についても2023年2月と2023年8月に大腸菌群数の見直しに係る検討会が開催され、2024年4月に改正が行われる予定です。下水道法の放流水の水質の基準についても下水道における水系水質リスク検討会が2023年2月28日に開催されており、随時変更されていくことが示唆されています。
弊社では、新しく変更になった大腸菌数の分析への対応も済ませておりますので、疑問等やご依頼などございましたらお気軽に問い合わせください。
■参考文献