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エコニュースVol.366

2023年12月01日

アドベンチャートラベルの概要と課題

株式会社エコニクス 自然環境部
陸域担当チーム 米田 豊

 

 最近話題の「アドベンチャートラベル」、新聞やテレビのニュースなどで知った方も多いのではないでしょうか。

 アドベンチャートラベルとは、その地域ならではの自然体験や異文化体験を通して、その土地の自然と文化をより深く知ることで自分の内面が変わっていくような旅行形態を指します(図1)。一般的に、『アクティビティ』、『自然』、『異文化体験』の3つの要素のうち、2つ以上を含む旅行形態と定義されています。すなわち、アドベンチャートラベルとは、単なるアウトドア活動を伴う旅行ではなく、旅行を通じた自分自身の変化や視野の拡大、学びを得るなどの体験価値に重点を置き、旅行者に良い影響を与えられるような旅行であるといえます。

北海道経済部観光局観光振興課 アドベンチャートラベル(AT)について
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kkd/133558.html

図1 アドベンチャートラベル(AT)の概念

 

 アドベンチャートラベルは、主にヨーロッパや北米、オーストラリアを中心とした富裕層の間で人気が高まっています。世界市場規模は70兆円以上と言われており、従来の旅行形態「マスツーリズム」と比較して、旅行者一人当たりの消費額や地域への経済波及効果が大きく、ウィズコロナ・ポストコロナ時代において需要拡大が期待できる観光分野として注目を集めています。

 そして、アジア初となるアドベンチャートラベル・ワールドサミットが2023年9月に北海道で開催され、64の国・地域の旅行会社・メディア・政府観光局などのアドベンチャートラベル関係者 約750人が集まり、各種講演会・セミナー・商談会などが実施されました。これらの機運の高まりもあり、北海道の観光施策においては、アドベンチャートラベルを観光の柱の一つとして位置づけ、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の観光振興の起爆剤として期待が寄せられています。

 アドベンチャートラベルの推進により、地域の自然環境や文化への理解が世界的に広がり、かつ、旅行や飲食などの産業が活性化して地域経済が潤うことは、素晴らしいことであると思います。しかしながら、我が国のバブル期の一部のリゾート開発のように経済優先で行き過ぎてしまうと、自然環境への配慮を欠いた施設整備やオーバーユースにより、良好な体験価値をもたらす自然環境や地域文化などの資源を損ねることになりかねません。貴重な自然環境や地域文化は、一度廃れてしまうと復元は困難であると思います。

 このため、国連世界観光機関(UNWTO)では、旅行者の過度な集中による観光の負の側面(自然環境や住民生活に対する負荷など)への対策として、「持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)」の推進を提唱しています。持続可能な観光とは、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義されています。

 我が国では、持続可能な観光の国際基準に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン」を観光庁が公表し、経済・文化・環境・住民それぞれの広範な分野に及ぶ「観光指標」を定め、観光が地域に与える影響のプラス面を最大化し、マイナス面を最小化するための指針を示しています。また、「SDGs への貢献と持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の推進に係る取組方針」を日本政府観光局(JNTO)が策定し、「地域の「環境」・「文化」・「経済」を守る・育む」ことを推進しています(図2)。

 「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)北海道実行委員会」は、アドベンチャートラベルの最も重要な概念として、「サステナビリティ(持続可能性)」と「地域経済への貢献」を掲げ、アドベンチャートラベルの推進による「地域環境に配慮した持続可能な地域経済の発展」を目指しています(図3)。


日本政府観光局(JNTO) SDGs への貢献と持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の推進に向けて取組方針を策定しました!
https://www.jnto.go.jp/news/20210622.pdf

図2 SDGs への貢献と持続可能な観光の推進に向けた取組方針の概要

 

北海道経済部観光局観光振興課 アドベンチャートラベル(AT)について AT及びATWS概要資料
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kkd/133558.html

図3 アドベンチャートラベルで最も重要な概念(ATWS北海道実行委員会)

 

 以上のように、アドベンチャートラベルの推進にあたっては、持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の考え方を基本とする必要があります。そして、持続可能な観光を実現するためには、客観的な現状把握、目標の設定、取組・対策の実施、達成状況のモニタリング及び検証結果に基づく改善という循環を繰り返すことが重要であると考えます。

 弊社は、自然環境・生活環境に関する各専門分野の技術者がおこなう現地調査により、様々な事業にともなう自然環境・生活環境への影響について予測評価し、持続可能な観光を実現するために必要な対策についてコンサルティングを実施いたします。

 

〈参考資料〉

北海道経済部観光局観光振興課 アドベンチャートラベル(AT)について https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kkd/133558.html

アドベンチャートラベル北海道ウェッブサイト
https://visit-hokkaido.jp/adventure-travel/traveltrade-press/reason/
国土交通省北海道運輸局 アドベンチャートラベルhttps://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/bunyabetsu/kankou/AT/indexAT.html

国土交通省官公庁 「持続可能な観光」の取組
https://www.mlit.go.jp/kankocho/jizokukanou.html

日本政府観光局(JNTO) 報道発表資料(2021年6月22日) SDGs への貢献と持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の推進に向けて取組方針を策定しました!
https://www.jnto.go.jp/news/20210622.pdf

一般社団法人 日本アドベンチャーツーリズム協議会
https://atjapan.org/

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