<シジミシリーズ Part2>
株式会社エコニクス
環境事業部 海域環境チーム 河合 百華
唐突ですが、皆様はシジミと言えばどのような姿形を思い浮かべますか?
あの真っ黒い小さな二枚貝を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。お味噌汁、佃煮など、私たちの食卓でもお馴染みのシジミですが、店で売られているシジミは黒、焦げ茶に近い、濃い色をしています。
しかしながらシジミを含む多くの二枚貝は、成長段階によって姿形が大きく変わり、シジミの場合は、幼貝の頃は真っ白な色をしています(写真1)。そこで今回はヤマトシジミの小さい頃の姿についてご紹介します。
日本で主に食用にされているシジミの仲間は、マシジミ(Corbicula leana、本州から九州に分布)、セタシジミ(C. sandai、淀川水系に分布)、ヤマトシジミ(C. japonica、日本全国に分布)の3種類で、このうち北海道にはヤマトシジミが生息しています。また、市場に出回っているシジミは、大部分がこのヤマトシジミです。
さて、今回ご紹介するヤマトシジミの一生ですが、夏にメスが産卵を行い、孵化した卵はトロコフォラ幼生、ヴェリジャー幼生、D型幼生(写真2)、殻頂期幼生(写真3)と、4段階の浮遊幼生の姿を経て、水中を浮遊します。
殻長期幼生に変態した後は、写真のような成体に近い形の着底稚貝(写真1)となって泥土に潜り、底生生活を送ります。そして殻長が約15mmにまで成長すると性成熟がはじまり、繁殖ができるようになります。成熟した成貝は年1回繁殖を行いながら、殻長およそ30mmにまで成長します。
ヤマトシジミの産卵は5~9月中旬の間に行われますが、周囲の水温や塩分に大きく左右されます。産卵には塩分約5psu、水温22.5~30℃が適していることが知られており、北海道では水温の上昇が遅いため、7月中旬~9月中旬が産卵期です。条件が揃わなければ産卵が抑制されるため、資源量にも少なからず影響します。そのためヤマトシジミの資源量を知るためには、成貝だけではなく、各年の産卵の有無や初期発育段階の個体の生息数を調べることが重要になります。
しかしながら、その初期段階のヤマトシジミを分析するのが、一苦労なのです。
浮遊幼生や着底稚貝などは、顕微鏡でサンプルを調べるのですが、写真4のように浮遊幼生などは砂粒よりもサイズが小さく、見つけるのも一苦労です。写真中に3個体D型浮遊幼生が写っていますが、いかに小さいかお分かりになりますでしょうか?
さらに、ヤマトシジミの場合は汽水域に生息するため、塩水が遡ってくるような川のサンプルでは、他の二枚貝浮遊幼生とも見分けなければなりません。貝類は初夏~秋にかけて産卵期をもつ種が多く、この時期には他の二枚貝浮遊幼生が入ることもしばしばです。体の構造もシンプルで美しく、一見特徴をつかみやすいように思える貝ですが、実はなかなか技術者泣かせの生き物なのです。
ちなみにシジミの旬は夏と冬の2回あり、それぞれ「土用しじみ」・「寒しじみ」と呼ばれ、肝機能を整える栄養分が豊富に含まれています。ビールがおいしいこの季節、土用しじみと一緒にお酒を楽しまれてはいかがでしょうか?