湿原シリーズ Part4・自然再生型公共事業 その1
株式会社エコニクス
技術顧問 辻井 達一
自然再生型公共事業が提案されていて、さまざまな議論が行われています。要点は、自然の再生は出来るものなのか、ということと、再生を事業化するのは妥当か、ということにあるとしていいのではないかと思います。
生物学的な再生でよく例に出されるのはトカゲの尻尾で、切断された尻尾が再び生えることですが、この場合、再生した尻尾は元のものとは全く同じではありません。形も機能も回復してはいますが、同一では無いのです。
自然はトカゲのような単一の生物ではなく、もっと複雑な構造体だから同一の自然の復元はもちろん不可能なのです。私たちはその"復元"は不可能としても"再生"は可能として考えるべきではないでしょうか。
私たちは長い間に、自然を必要に応じてさまざまに改変してきました。その過程で時には破壊し、時には放棄してきました。森林も海浜も、そして湿地にもその跡が残っています。少なくともそれらの修復は行うべきであり、修復もまた、ここでいう再生の一部に加えられるのです。
施策イメージ図 ( 釧路川本流茅沼地区 )
今、傷んだ名画の補修が進められていますが、それにもさまざまな議論がありました。完璧な技術はまだ無いから手を付けるべきではない、それは新たな損傷になるとも言われました。しかし、手をつかねて全く施しようのないまでになってからでは遅いのです。自然の修復についても同じことが言えます。試行錯誤は避けられないし、技術的にもまだ問題がある場合も少なくありません。出来るところから今、始めることが必要なのです。
※写真:『釧路湿原の河川環境保全に関する提言』パンフレットより