トドシリーズ Part3・北海道におけるトドの生態と漁業被害 その3
株式会社エコニクス
環境事業部 磯野 岳臣
そもそも体重1t近くにもなるトドが生息している海とは、どのような海でしょうか。
地球儀上でトドの分布域を示しました。
意外と狭い範囲しか生息していないことがわかります。
トドの分布域を見てみると、西は北海道からオホーツク海、ベーリング海アリューシャン列島、アラスカ湾、そしてオレゴンからカリフォルニアまでと、北太平洋の辺縁に沿って分布しています。大西洋や南半球に生息していないのは進化上の発生過程も影響していますが、これらトドが生息する海域は、流氷の影響を強く受け、豊かな海と言われている海域なのです。
流氷は土壌からの栄養塩を運ぶとともに付着藻類を発達させ(アイスアルジー)、このアイスアルジーは海氷の底部で氷に囲まれながらも、氷点下しかも弱光という厳しい環境の下で活発に光合成を行い、その数を爆発的に増加させていきます。実際に、南極やサロマ湖等の海氷底部に付着しているアイスアルジーの量は、海洋における植物プランクトン大増殖地の数十~数百倍の分布密度であることが知られています。この豊かなプランクトン量によって魚類はもちろん、海獣類、海鳥類までもが育まれてきました。もちろんトドもここに含まれています。前号では、生息環境によってトドの成長量などに影響が出ることを紹介しました。このような知見は、トドが豊かな海に支えられ、低次生産者に影響を受けながら生活している証拠とも考えられます。
北海道沿岸においてニシン漁が盛んであった1970年以前は、トドによる漁業被害はほとんど見られませんでした。しかし現在は、少ない漁業資源を奪い合う形で厳しい競合状態にあります。これからトドとどのように付き合っていったらよいのか、保護だけでもなく駆除だけでもない、皆で考えるシステムを作る時期にきていると言えます。私たちエコニクスも、北海道を含む極東海域の豊かな海とこれを利用する皆様のお役に立てるよう一層努力して行きたいと考えています。