<海の生物シリーズ Part25・魚類 その6>
株式会社エコニクス
環境事業部 泊担当チーム 猪苗代 盛達
冒頭にありました“仔魚(「しぎょ」)”という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。仔魚とは、一般的に孵化してからひれが完成するまでの魚のことを指します。魚類は、この仔魚という段階を経て“稚魚「(ちぎょ)」”に移行します。魚の資源量を管理するための調査方法の一つとして、網を曳いて魚卵や仔魚を採集して資源量を調べる方法があります。しかし、魚卵や仔魚を採集しても、これらが何の魚の子どもか分からなければ、特定の魚の資源量を推定することはできません。そのために、仔魚に関する知識が必要になります。
例えば、ご家庭の食卓に並ぶカレイで考えてみましょう( “カレイ”という名前は、カレイ科魚類全体を指した総称です)。カレイの仔魚の写真を以下に示します。
お気づきでしょうか。スーパーなどで見るカレイは眼が片側に二つ並んでいますが、この写真では眼が片側に一つしかありません。実は、カレイの仔魚は一般的な魚と同じで眼が両側に一つずつあるのです。この後、成長につれて片側の眼はもう一方の眼の横に移動し、大人の姿に変わっていきます(これを“変態”といいます)。このように、魚の子どもと大人とでは似ても似付かない姿をした種類がいます。このため、子どもと大人で形態が大きく異なると種類が違うと考えられていた事例もあるくらいです。
北海道には、日本産魚類約4,200種のうち、約650種の魚類が生息しているといわれています。さらに日本産魚類はこの十数年で約300種増加しました。この“種”とは、生物分類の基本の単位で「個体間で交配が可能な一群の生物で他の集団から隔離されている集団」とされております。わたしたち人間は、“ヒト”という“種”です。過去には形態の似た集団を一つの単位として“種”としてきた時もありますので、カレイの仔魚のように、親と似ても似付かない姿をしていると別種と考えたくなりますね。しかしながら、カレイの仔魚をよく調べてみると、背骨(脊椎骨)の数やひれを支える骨(担鰭骨)の数が大人のカレイと同じなど、いくつかの特徴があり、まぎれもない親子なのです。一方ではこれまで一つの“種”とされてきた生き物が別種と判定される事例もあります。その一例として昨年、「メダカの学校」でお馴染のメダカが、ミナミメダカとキタノメダカという2種に分けられました。これは遺伝的や形態的、生態的な観点から、これまで1種類であったものを2種類にわけたためです。
ほんの一例ではありますが、ご紹介したように地球が育む生き物というのは千差万別で、知られざる真実がまだまだ眠っています。普段、何気なく眺めているスーパーの鮮魚コーナーで、改めて魚の姿を見直してみると、そのちょっとした違いが新種に繋がるかもしれませんよ。
<参考文献>
魚学入門(恒星社厚生閣)
北海道の全魚類図鑑(北海道新聞社)
日本産魚類検索 全種の同定 第三版(東海大学出版会)
岩波 生物学辞典 第4版