湿原シリーズ Part1
株式会社エコニクス
顧問 北星学園大学教授 辻井 達一
水界と陸界という区分があります。湿原は陸上に存在しますから陸界の一部だということになりますが、水を多分に含んでいてきわめて不安定です。さまざまな湿原のタイプの一つにマングローブ湿地がありますが、これは位置的にも正に海と陸との境界にあって満潮のときには海水に浸り、干潮の時には地面が現れます。そこは豊かなプランクトンに支えられるカニやエビや小魚の生息の場であると同時にマングローブ林が形成されるところでもあるのですが、その地面は、なにしろいつも水をたっぷり含んでいるのですから樹木は根が呼吸できるような仕掛けを備えていなければならず、また不安定なところで立っていることが出来るような形も備えなければなりません。蛸足状のパイプのような形とか板根と呼ばれるものとかがその特徴です。
湿原には多くの陸生の生物(人間を含む)、ことに固い地面に住む生物にとっては侵入の難しいところです。それが湿原の生物にとっては幸いになっていろいろな生物たちが生き残ることができるわけです。氷河期から生き残った生物や植物もあります。北海道ではヤチカンバ、サカイツツジ、カラクサキンポウゲなどの植物、キタサンショウウオ、エゾカオジロトンボなどがその例です。
湿原は水を含み、湛えるスポンジ状の媒体ですから水面の見えないダム湖に例えられます。実際に水を貯え、ゆっくりと排出することができる点ではダム湖よりむしろはるかに機能的だとも言えます。スポンジに水を吸わせてみればそのことが実感として理解できるでしょう。
湿原は今、その意義と効果が見直されつつあります。その保全と懸命な利用が考えられています。この3月にはそうした問題を討議するラムサール条約会議がオーストラリアのブリスベーンで開かれました。